自分の親は「毒親」か。はたまた、自分は「毒親」になっていないか......。
「毒親」とは、過干渉、暴言・暴力、ネグレクトなどにより、自分の思いどおりに子どもを支配しようとする「子どもの"毒"になる親」のこと。
過干渉も「毒親」の1種であることから、無自覚のうちに「毒親」になってしまっているケースは結構あるかもしれない。
今回は、「毒親」小説3選をご紹介。「こんな親がいるのか」と憤ったり、「これ自分もやられたことがある(やったことがある)」とヒヤッとしたり。誰しも他人事ではいられないテーマだろう。
『海辺の金魚』(小川 紗良 著)
『海辺の金魚』(ポプラ社)は、役者・映画監督として活躍する小川紗良さんの初小説。児童養護施設を舞台に、18歳の少女と子どもたちの成長を温かい視点から描いた連作短編集。
児童養護施設で暮らす花は18歳になる。施設に来て10年。翌春には施設を出るきまりだが、いまのところ将来の夢も希望もない。花は自分の母親のことを「あの人」と呼ぶ。
「あの人」が事件を起こしたのは10年前。夏祭りの会場で人々の命を奪い、無差別殺人の罪で逮捕・勾留された。「ママ!」と駆け寄ろうとしたが、「花、いい子でね」とだけ言い捨て、「あの人」は遠くへ行ってしまった。
「あの人のいない楽園で、私は人魚姫のごとくかけがえのない他の誰かと出会うのだ。終いには海の藻屑になってでも、私はここではないどこかで、あの人ではない誰かと巡り会い、まともな人間になることを夢見た」
書評「母は、無差別殺人で逮捕された。児童養護施設で暮らす娘は...」はこちら。
『翼の翼』(朝比奈 あすか 著)
『翼の翼』(光文社)は、「入試問題頻出作家」と呼ばれる朝比奈あすかさんの書下ろし作。テーマは中学受験。進学塾のクラス分け、学校の序列、ママ友同士のマウンティング、家族の修羅場......。とにかくリアリティが半端ではない。
「今はただ、翼の未来への選択肢を増やしてあげたいだけなのだ。(中略)『この子のために』というまっさらな愛情には正しさしか見つからず、円佳の頬には笑みが満ちる」
しかし、息子は塾の最上位クラスから大幅にクラス落ちしてしまう。はじめは「ちょっとやってみて、大変そうだったらやめればいいし」と思っていたが、いつしか母親にとっても「先の見えない苦行」に。
「中学受験は親子の挑戦 なぜ我が子のことになると、こんなにも苦しいの?」
親の気持ちに寄り添い、過熱する親の心情を余すところなく描いた「凄絶な家族小説」であり、痛いほど突き刺さるメッセージ集でもある。
書評「『この子のために』が我が子を蝕む。痛いほど突き刺さる『中学受験のリアル』」はこちら。
『砂に埋もれる犬』(桐野 夏生 著)
『砂に埋もれる犬』(朝日新聞出版)は、「貧困」「虐待」「毒親」をテーマにした桐野夏生さんの注目作。
目加田(めかた)のコンビニ店は、神奈川県は多摩川沿いの、工場の多い街にある。そこに時々やってくる、何となく薄汚い少年がいた。「どうしたんだろう」と思っていると、少年は言った。「あのう、要らなくなったお弁当ください」。
少年の名前は、小森優真(12歳)。「居所不明児童」。前の小学校は4年生の半ばまで通ったが、引っ越してからは学校に通っていない。母親が住民登録を怠り、転入できずにいる。
母親は、子どもを残して数日間いなくなる。アパートに帰ってきて、食べ物を置き、また出かけて行く。仕事と嘘をつき、恋人と遊び歩いているのだ。
ある日、優真は母親の恋人に殴られ、児童相談所へ連れて行かれる。優真は内心ほっとしていた。あのアパートは「『うち』という名の牢獄」だったからだ。
「子供だって、堪忍袋の緒が切れることがある。親を軽蔑し、棄てる瞬間がある。(中略)『僕はお母さんが大嫌いです』」
書評「桐野夏生が描く虐待の連鎖。『母親』という牢獄から脱け出した少年は......。」はこちら。
「毒親」ぶりもいろいろ。今もどこかで起きているであろう現実、ひょっとして自分も足を踏み入れてしまうかもしれない領域が、まざまざと描かれている。
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