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韓国ドラマ好きにおすすめ。物語の背景を深く知る。

韓国カルチャー

 「愛の不時着」「イカゲーム」など、韓国ドラマの人気が日本でも沸騰している。本書『韓国カルチャー』(集英社新書)を見て、最初は韓国ドラマに関する本だろうと思った。しかし、単なるドラマの紹介を超えて、韓国の社会と人々への理解を促す深みのある本だった。

 著者の伊東順子さんはライター、編集・翻訳業。1990年に渡韓。ソウルで企画・翻訳オフィスを運営。著書に『もう日本を気にしなくなった韓国人』(洋泉社新書)、『ビビンバの国の女性たち』(講談社文庫)など。

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 「愛の不時着」の恋人役で共演した俳優のヒョンビンさんとソン・イェジンさんが昨年交際中であることが報じられたことを紹介。「北朝鮮の将校リ・ジョンヒョクと韓国の超富裕層ユン・セリの愛は、ついにリアル社会で実現したのだ」と書いている。ドラマについての記述はここまで。「そもそも北朝鮮の人はこのドラマを見ることができたのだろうか?」と、北朝鮮の韓流事情に移る。

 ドラマの中で、北朝鮮兵士の一人が「韓国ドラマ通」という設定で、多くの場面で重要な役割を果たしていた。2000年代に入り、中国経由で多くの韓国ドラマが見られるようになったという。大量にダビングされた韓国ドラマは、北朝鮮の市場などで売られるようになり、日本と同時に北朝鮮で韓流ブームが起こったというのだ。

 しかし、2019年から取り締まりが厳しくなり、新型コロナを理由に北朝鮮が中国との国境を封鎖。「韓流掃討作戦」にも乗り出した。「愛の不時着」を見るのは命がけのようだ。

 日本ではこの作品はブームになったが、韓国ではそうでもなかったという。「現実はそれほど甘くはない」ことを韓国の人はよく知っているからだ。これまで韓国でくりかえし製作された、南北融和を期待する映画を次に紹介している。

 南北が対峙する境界・板門店を舞台にした映画「JSA」(2000年)は、北朝鮮兵士が「兄」で韓国兵士を「弟」とするようなつくりだった。封切の3カ月前には初の南北首脳会談が実現した。当時ソウルにいた伊東さんは、両首脳の握手の瞬間には街のあちこちから歓声が上がったことを覚えている。映画は韓国人の北朝鮮への意識も変えた。

 このほかにも、韓国と北朝鮮が史上初の南北統一卓球チームを結成して出場した実話を映画化した「ハナ 奇跡の46日間」(2012年)などを取り上げている。北朝鮮の工作員と韓国の情報機関関係者の人間的交流を描いた「義兄弟 SECRET REUNION」(2010年)、北朝鮮と韓国の刑事のアクション・バディものなど多くの作品があることがわかる。

 2017年の「鋼鉄の雨」は、北朝鮮のクーデターを背景にしたバディもの。この頃から、Netflixなどの海外資本が入ってきて、朝鮮半島情勢はエンタメにとって格好のテーマになった、と指摘している。

 パク・セロイが主役を演じた「梨泰院(イテウォン)クラス」も話題になったドラマだ。小さな居酒屋の店員たちが財閥系居酒屋に復讐するストーリー。トランスジェンダーやアフリカ出身者など、多様なアイデンティティが活躍する。

 梨泰院はソウルの米軍基地があった街だ。地下鉄の開通とともに、それまで孤立した外国人空間だった街が観光地化したという。

 伊東さんにとっても思い入れのある街だそうだ。「基地の街→観光客の街→多国籍タウン→性的マイノリティの街→若者文化の発信地」とその変化を表現している。新型コロナで瀕死の街になっているが、「したたかな連中は機を逃さないだろう」と見ている。ドラマの続編はリアルに始まっているかもしれないとも。

日本とは異なる受験競争

 ドラマ「Mine」からは財閥について、ドラマ「SKYキャッスル」からは上流階級と受験戦争について解説している。SKYとは、韓国の最難関大学であるソウル大学(S)、高麗(コリョ)大学(K)、延世大学(Y)の頭文字を組み合わせたものだ。よく、東大と早慶にたとえられるが、韓国ではソウルにあるSKYが突出して高いという。

 韓国の大学入試というと、共通試験の受験生を警察官が先導する映像がニュースによく出てくる。しかし、実際にはSKYをはじめとする難関大学では、7~8割をAO枠が占めていることを指摘している。

 ドラマで女子生徒が定期試験の勉強にばかり打ち込んでいるのが理解できなかったが、内申点を上げることが大切だったことを知った。また、コンクールでの受賞歴やボランティア活動などをまとめた「ポートフォリオ」が重要なことも。ドラマにも登場する「入試コーディネーター」というビジネスも生まれた。文在寅大統領の側近だった前法相の娘に関する疑惑も「ポートフォリオ」に関連していた。

 受験競争からの脱却を目的にしたAO枠の拡大だったが、さらに競争を激化させ、「ポートフォリオ」は、より不公平に、経済格差を持ち込むことになった、と指摘している。

 映画ばかりではなく、日本でもベストセラーになった小説『82年生まれ、キム・ジヨン』などの小説も紹介し、韓国の女性の地位や不動産による階級社会にも言及している。最後に2021年秋に世界中で話題になったドラマ「イカゲーム」にも触れている。バトルロイヤルが繰り広げられるさまに、「あんな残酷なドラマは見ていません」という韓国の声を紹介している。

 以前の韓国は自分をきれいに見せることに懸命だったが、今はすべてさらけ出す。そのストレートな正直さが、韓国作品の魅力かもしれない、と結んでいる。長く韓国に住む著者だからこそたどり着いた結論に違いない。

 本書に登場するほとんどの作品(映画を除く)を見たり読んだりしていた評者にとっても、知らないことが多く有益だった。韓国をもっと知りたいという欲求をさらにかきたてられた。

 BOOKウォッチでは、『人生を変えた韓国ドラマ 2016~2021』(光文社新書)、『ソウル25区=東京23区』(合同会社パブリブ)、パク・ウンジ著『フェミニストってわけじゃないけど、どこか感じる違和感について』(ダイヤモンド社)などを紹介済みだ。



 


  • 書名 韓国カルチャー
  • サブタイトル隣人の素顔と現在
  • 監修・編集・著者名伊東順子 著
  • 出版社名集英社
  • 出版年月日2022年1月22日
  • 定価946円(税込)
  • 判型・ページ数新書判・254ページ
  • ISBN9784087211993

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