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ソウルと東京には似たような区があるけど、微妙な違いもある

ソウル25区=東京23区

 1984年に出た関川夏央さんの歴史的名著『ソウルの練習問題』(集英社文庫など)を読んでから韓国にハマり、ハングルも勉強し、最近ではNetflix経由で毎日浴びるように韓流ドラマを見ている評者だが、残念ながら一度もかの国を訪れたことがない。行こうとした矢先にコロナ禍で渡航出来なくなってしまった。

 こうなったら、「妓生旅行」とか「ミーハーな韓流ドラマファン」と侮られても一度は行っておくべきだったと反省しきり。仕方がないから、韓国関連の雑誌や本でウサを晴らしている。そんな時に出会ったのが本書『ソウル25区=東京23区』(合同会社パブリブ)である。読めば読むほどに「奇書」という思いが募ってきたが、韓国ファンには一読を勧めたい。

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 韓流ドラマを見ていると、大雑把に言って、登場人物の住まいがある場所は3つに大別される。高層マンションが立ち並ぶ江南エリア(ソウルを南北に分断する漢江の南側の新興地区)か、北側の山を背景にした高級住宅地か、庶民的なたたずまいの下町風のエリアの3つだ。

ソウルと東京で似ている区がある!

 江南に相当するエリアは東京には存在しないので、勝手に東京湾岸のタワマンとか頭の中で「翻訳」しながら見ていただけに、本書の「似ている区を擬(なぞら)えることで土地柄を徹底的に理解する」というコンセプトにはうなずけるとともに、微妙な差異が笑いを呼ぶ。

 たとえば、こんな調子。

 鐘路区=千代田区 官公庁や新聞社、金融機関など国の主要機関が揃う、名実ともに国の中枢
 中区=中央区+新宿区 南大門市場や明洞、市庁、ソウル駅が所在し、鐘路区と並ぶ首都中枢
 龍山区=港区 梨泰院(イテウォン)や大使館が並ぶ漢南洞、在韓米軍基地があるソウル一の国際区
 城北区・道峰区・江北区=世田谷区+目黒区の一部 北漢山に接し、城北洞はペ・ヨンジュンや日本大使も住む高級住宅地
 冠岳区=足立区 ソウル大学があり、半地下部屋密集、朝鮮族・中国人街、スラム街を形成
 江南区=渋谷区+目黒区と港区の一部 PSYの世界的ヒット曲でも有名なソウル随一の流行発信地

戦後に拡大、分離したソウル25区

 本書によると、ソウルの区制が始まったのは1943年の日本統治時代のことであり、1945年の太平洋戦争終結までに8区が発足している。これが現在のソウルにおける区の基礎になっている。1949年にはソウル特別市に改称、1963年には現在の江南にあたる地域がソウルに編入されて9区に、1973年は11区まで増え、この時点でほぼ現在の25区の範囲に固まった。そこから既存の区が分離するようにして増えていき、1995年に現在の25区になった(その際に一部の地域をソウルに編入している)。

 東京23区の範囲は約140年前にほぼ固まっていたのに対し、ソウルは1945年以後も拡張し続け、今のソウルの範囲とほぼ同等になってからは50年足らずなのだ。

 ソウルと東京の人口、面積を比較すると、ソウル25区は約995万人、面積は約605平方キロで、東京23区は約966万人(東京都全体では約1400万人)、面積は627平方キロとほぼ似ている。目次の後ろの対称地図を見ると、それぞれ都心の鐘路区と千代田区を中心に反転させたような形になっている。

 単純にソウルのある区が東京のある区に対応しているわけではない。たとえば、東大門区=豊島区としているが、「池袋のない豊島区+文京区・台東区の要素も」と細かい。有名大学が多い東部のベットタウンだが、かつて街娼が多くいた清涼里(チョンニャンニ)というターミナル駅もある。「清涼里は巣鴨か上野、それとも秋葉原?」という注釈には笑った。

 韓流ドラマ「梨泰院クラス」で有名になった梨泰院は、六本木のような雰囲気と紹介されている。六本木にも戦後、GHQが駐留していたが、梨泰院にも米軍基地がある。

 写真も豊富なので、韓流ドラマを見る際のガイドとしても使えるだろう。言うまでもなく、ソウルと東京は違う。だが、似ているところもある。低所得、犯罪が多いエリアなど書きにくいところも遠慮なく指摘。ソウルだけではなく東京についての記述も充実している。

 著者の吉村剛史さんは1986年、東京都新宿区生まれ。ライター・メディア制作業。法政大学社会学部メディア社会学科卒。20代のときにソウル市東大門区に1年8カ月滞在。韓国に17ある第一級行政区域と約100市郡を踏破。2012年韓国文化雑誌「スッカラ」でデビュー。2018年には「散歩の達人」東京コリアタウン特集を執筆するなど、韓国文化、街歩きをテーマにしている。『ソウルの練習問題』から30年以上がたち、日本の韓国専門ライターの進化はここまで来たのか、と感慨深いものがある。

 BOOKウォッチでは、『韓国社会の現在――超少子化、貧困・孤立化、デジタル化』(中公新書) 、韓国小説『アーモンド』(祥伝社)、『反日種族主義』(文藝春秋)など硬派な本ばかりでなく、『最旬 韓国ドラマ&カルチャーFAN BOOK』(ワン・パブリッシング)など柔らかい韓国関連本も紹介している。



 


  • 書名 ソウル25区=東京23区
  • サブタイトル似ている区を擬えることで土地柄を徹底的に理解する
  • 監修・編集・著者名吉村剛史 著
  • 出版社名合同会社パブリブ
  • 出版年月日2021年2月10日
  • 定価2530円(税込)
  • 判型・ページ数四六判・383ページ
  • ISBN9784908468476

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