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韓国の「男尊女卑」社会に投じた一石、等身大のフェミニズム

フェミニストってわけじゃないけど、どこか感じる違和感について

 韓流ドラマを見ていると、法事のたびに親戚が集まり供養する場面がしばしば出てくる。たくさんの供え物を用意し、料理も作る。これらは女性の役割として当たり前のように描かれる。日本なら、三回忌とか七回忌とか回数は限られるし、仕出し屋の料理を利用することもある。だが、韓国では毎年行うようだから回数が半端ではない。このほかにも父母の誕生日など、とにかく夫の実家に集まることが多い。「韓国の女性は大変だな」と思っていたら、本書「フェミニストってわけじゃないけど、どこか感じる違和感について」(ダイヤモンド社)に、こんな文章があった。

 「うちは祭祀(名節や法事で先祖を祀る儀式)がないんだ。母親はキムジャン(大量のキムチをまとめて漬け込む行事)もしない。助かるだろ?」

 「僕と結婚したら君は本当にラクが出来るよ」とアピールする男性の価値観そのものを著者は問題視する。

『82年生まれ、キム・ジヨン』がもたらした影響

 儒教の影響がいまだに根強く残る韓国。特に「男尊女卑」の悪弊は、日本の比ではない。そんな韓国社会に一石を投じたのが、2016年に刊行され大ベストセラーになった『82年生まれ、キム・ジヨン』(チョ・ナムジュ著、斎藤真理子訳、筑摩書房)である。本書でもこう取り上げている。

 「多くの女性が、いままで違和感を覚えていたのに我慢してきたこと、女同士でただ愚痴を言い合うだけだったこと、あたりまえだと考えてきたことに、疑問を抱きはじめた。そして声を上げはじめた。その過程で、最も多く目にしたのが、男性が現実から目をそらし、反発する姿だった」

 アイドルがこの本を読んだだけで嫌われる事態も生まれたという。本書も変わりつつある韓国社会を反映したものだろう。著者のパク・ウンジ氏は27歳で結婚し、結婚6年目の夫と猫3匹、ラブラドルレトリバーと暮らすフリーライターだ。審査に通った書き手だけが投稿できる韓国のブログサービスに「猫」と「女性の生き方」についてのコラムを執筆。『野良猫のほうが幸せだろうか』などの著書がある。

「味噌女」「キムチ女」「概念女」とは何か?

 パク氏のスタンスはタイトルにあるように、自分を「フェミニスト」と呼ぶには、いささか抵抗を感じるというものだ。だが、おかしいと思ったことには舌鋒鋭く、切り込んでいる。

 たとえば、勝手にランクづけしてくる男性たち。コーヒー専門店でコーヒーを飲む女性に対して、「味噌女」(高級ブランド志向の見栄っ張りな女性)とか「キムチ女」(何でも男性にやってもらうのが当然と思っている女性)という言葉で非難する風潮があったという。

 パク氏もスターバックスで高めのコーヒーをテイクアウトして歩いていると、会社の男性に「君もスタバに行くんだ?」と言われたそうだ。彼らは「君はキムチ女とは違うよね」と言っていた人たちだ。ブランド品を買うお金もなく、男の人からおごってもらうという気もなく、男性の経済力より「人柄」を重視する女性たちを、「キムチ女」の逆の意味の「概念女」(男性の立場を理解して思いやることができる、いわゆる古風な女性)と呼び、そう思われたらしい。

 彼らの基準で勝手にランク付けされるのが「不愉快だった」と書いている。

徴兵制がもたらす問題

 韓国で女性のほうが得をしているという考え方のいちばんの根拠は、「兵役」の問題だ、と指摘している。男性は満20~28歳の誕生日までに入隊する。服務期間は配属先によって18~36カ月。大学を休学して入隊することが多いため、女性よりも数年遅れて卒業し、社会に出ることになる、と説明している。

 そのため、フェミニズムへの反発から、女性も兵役に就くべきだ、という主張が多くの男性に支持されているそうだ。

 「分断国家として兵役を廃止できないのであれば、徴兵制について指摘すべき部分を洗い出し、改善しようとするのが筋だ。それなのに兵役の不満が女性に向けられるという、とんでもないことになっている」

 その一方で、兵役を終えた30代男性にとって、軍隊の経験は有利に働くことが多い、と書いている。「韓国の職場文化は、兵役を経験した男性が軍隊の文化をそのまま持ち込んでつくられたものだからだ」。

 韓流ドラマを見ていると、やたらと「忠誠」と叫び、敬礼するシーンがあったり、先輩・後輩の関係性が強かったりすることに驚かされるので、「なるほど」と思う。

 とは言え、本書は硬い話ばかりではない。「もう私には生理休暇は必要ない!」というキャッチコピーの鎮痛剤の広告や男性の手の大きさに合わせてできていると言われたiPhoneのサイズなど等身大のことから、仕事、家事、結婚、社会の問題に切り込んでいる。

 日本のドラマでは嫁姑問題はもう取り上げられるべきテーマではなくなった。しかし、韓国ではさまざまな場面で登場する。結婚を迷う女性に、一つだけアドバイスするとしたら、「言うべき瞬間に口を閉ざす男とは結婚しないほうがいい」と書いている。結婚後も親との関係が親密な韓国ならではのアドバイスだろう。

 本書を読んでから、韓流ドラマを見ると、より背景がわかる。

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BOOKウォッチでは、『82年生まれ、キム・ジヨン』の著者チョ・ナムジュさんの最新作『ミカンの味』(朝日新聞出版)も紹介済みだ。

  • 書名 フェミニストってわけじゃないけど、どこか感じる違和感について
  • 監修・編集・著者名パク・ウンジ 著、吉原育子 訳
  • 出版社名ダイヤモンド社
  • 出版年月日2021年4月13日
  • 定価1650円(税込)
  • 判型・ページ数四六判・304ページ
  • ISBN9784478109663

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