自分の悩み事は、慎重に取扱う。相談する場合は相手と内容を厳選し、口外しないよう相手にお願いする。
それが他人の悩み事ならどうだろう。俄然興味が湧いてくる。新聞や雑誌の隅々まで目を通さないとしても、人生相談コーナーは必ず読む、という人も多いのでは。
それにしても、なぜ他人の悩み事は気になるのか。事実は小説よりも奇なり、人の不幸は蜜の味......そんなフレーズが頭に浮かぶ。あとは、他人の悩み事が自分の悩み事と同じこともあるからだろう。
今回は、個性の強い「人生相談本」5選を紹介。回答者のタイプや経験値により、アドバイスの質(甘口・辛口、浅い・深い)はさまざま。
『辛口サイショーの人生案内』(ミシマ社、2015年)
最相 葉月 著
最相葉月(さいしょう はづき)さんが回答者を務める、読売新聞の「人生案内」を書籍化した1冊。はじめにの段階で、これは面白い本だと直感した。
「衆人環視の中で相談していながら、匿名性は保たれているため誰の話かはわからない。(中略)相談者を内緒にすれば、相談者は誰にも知られずに専門家の回答を得られ、読者や聴取者にとっては楽しくためになる。この一挙両得を狙った人類史上最高のエンタテインメントが、人生相談だと私は思っています」(はじめに)
就職、結婚、不倫......。誰もが訊きたかった46の質問に、容赦なく真正面から答える。相談者の反感を買いそうな回答もあるものの、その鋭さが心地よく、スカッとする。
相談 15歳の女子。ずっと片思いだった幼なじみにふられ、落ち込んでいます。(後略)
回答 失恋の悲しみは一生続くわけではありません。あなたを愛してくれる人との出会いは必ずある。(中略)なーんて言うと思ったら大間違い。あなたには絶望が足りません。(後略)
なまぬるい回答はない。相談者も勇気あるな、と感心させられる。昨年刊行された第2弾『辛口サイショ―の人生案内DX』とあわせて読みたい。
『先生、ちょっと人生相談いいですか?』(集英社インターナショナル 発行、集英社 発売、2018年)
瀬戸内 寂聴、伊藤 比呂美 著
詩人の伊藤比呂美さんが「人生のぶつかり稽古」をする気持ちで、瀬戸内寂聴さんに斬り込む1冊。どんな難問・奇問にも、寂聴さんがずばり回答する。
冗談のような会話からはじまる対論は、話題をシフトしながらディープな方向へ。「子どもを捨てて家を出るっていうのは、どんな感じなんでしょう」など、際どい質問もちらほら。
比呂美 先生、どうして日本の社会って、不倫した人をあんなにヒステリックに叩くんでしょうねえ。
寂聴 法話でも言うんですよ。不倫はしかたがない、雷に当たるようなものだからもう、逃げたって当たるのよ。(後略)
昨年11月に寂聴さんが亡くなり、いろいろ報じられたが、本人はこんなふうに話していたのか、という発見がある。
『お悩みは精神科医Tomyにおまかせ! 相談する勇気』(飛鳥新社、2021年)
精神科医Tomy 著
精神科医Tomyさんと相談者のやりとりを全編対話形式で紹介する1冊。相談者を自分に置き換え、実際にTomyさんと対話している感覚で読める。
自身を「アテクシ」と呼ぶなど、若干癖はあるものの、内容はまっとうで説得力がある。
「この本は、相談者とアテクシの会話をそのまま文字に起こすような手法を使って作りました。(中略)誰かに相談する勇気を持つ、そんなきっかけになれば幸いです」
『女のお悩み動物園』(小学館、2020年)
ジェーン・スー
悩みを抱えている人の特徴と傾向を16種類の動物になぞらえ、相談事を分類し、悩みごとへの向き合い方や解決方法を紹介する1冊。
悩みをカテゴリー分類するのではなく、まず人を分類する。しかも動物に。悩みがテーマのはずが、自分はどの動物だろうと予想し、読む前からすでに楽しい。
FILE.1 夢見がちなラクダさん 「私の王子様はどこ?」
おーい、ラクダさん。社会という砂漠をコツコツ進む、働き者のラクダさん。(中略)いまの時代、手綱を他人任せにするのは危険です。待つなら進もう。あなたらなら、我が道を行けますよ。
キャッチーだけど読んでがっかりという本もあるが、本書はキャッチーなうえに濃い。ジェーン・スーさんの文章は元気をもらえる。
『相談の森』(ネコノス、2020年)
燃え殻 著
文春オンラインの連載「燃え殻さんに聞いてみた。」を書籍化した1冊。
重い相談から笑える相談まで、自分のこととして考える燃え殻さんの不思議で複雑な回答の数々。ずばり解決策が示されるわけではないものの、「このままでいいのかもしれない」と、なぜかホッとさせられる61のQ&Aを収録している。
「僕は日々、いろいろな判断が遅い上に、間違えがちだと注意されるほうだし、人生の大きな後悔も一つや二つじゃない。そんな人間が、他人の相談に答えるのはいくらなんでもおこがましい気がする。だからせめて、相談の森に、朝が来るまで一緒にいることにした。かならず夜が来るように、かならず朝はやって来るから」
燃え殻さんの文章からは、なんとも言えない脱力感がにじみ出ている。考えすぎないようブレーキをかけてくれる感じだ。
それぞれに個性があり、読者との相性もあるだろう。自分に最適の1冊を見つけてほしい。
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