ゴッホ、ピカソ、ムンク、カーロ、バスキア。巨匠と呼ばれるアーティストは、曲者だらけだ。恋人、家族、友人、師匠や弟子など。天才画家たちは常に人間関係でトラブルを抱えていたという。こじらせているからこそ傑作を生み出せたのか、はたまた傑作を生み出したからこそ、性格をこじらせてしまったのか――。
5月26日に発売された『こじらせ美術館』(ホーム社)では、美術の巨匠12人に着目し、ダメダメな人間性とそのエピソードを作品の秘密とともに解き明かしていく。
絵画は美術の教科書でしか観たことがないという人も、美術館マニアにも、絵画鑑賞が楽しくなる裏話が満載だ。
著者は東京・荻窪「6次元」主宰、アートディレクターのナカムラクニオさん。本書のカラーイラストも担当している。ナカムラさんは、『古美術手帖』や『チャートで読み解く美術史入門』『洋画家の美術史』などの著書があり、美術史に造詣が深い。
本書の冒頭で、ナカムラクニオさんは次のように語っている。
「こじらせ」とは、【物事をもつれさせ、めんどうにしてしまう】こと。
しかし、この逆風こそが芸術のスパイスとなって画家たちの作品を引き立ててきた。もしゴッホが、真面目(まじめ)な伝道師のまま常に冷静で、どこからもはみ出さない男だったら、あのような命がほとばしる絵画を描けただろうか。もしピカソが、女性関係にクリーンで、アカデミックな肖像画だけを描いていたら、あのような絵画の革命が生まれただろうか。やはり「こじらせ」は、芸術の母なる存在なのだと言えるだろう。そして画家は、こじらせてしまった人間的な弱さがあるからこそ、その作品も愛される。彼らは、どうしようもないダメな人間であることを絵画の中でさらけ出し、見る人に安心や希望を与えてくれる存在なのだ。(「はじめに──内面的葛藤を視覚化する力 」より)
ホーム社のWEBサイトでは、内容の一部を試し読みできる。ここでは、ムンクのエピソードを紹介しよう。
ムンクといえば、名画「叫び」があまりにも有名だ。医師の息子として生まれたムンクは幼少期に母と姉を結核で亡くし、26歳で父を亡くしてしまう。その後も妹が精神疾患にかかったり、弟を肺炎で亡くしたり、家族を立て続けに失うという不幸に見舞われた。
高身長でイケメンだったムンクは女性にモテたが、家族の不幸や自らの虚弱体質からか、結婚をしようとはしなかった。35歳の時に出会った恋人に結婚を迫られ、口論から自殺するとピストルを持つ彼女ともみ合ううちに、ピストルが暴発。ムンクは左手の中指を撃ち砕かれてしまう。
画家として成功しながらも、不幸な人生を送ったムンク。ナカムラさんは、「もし美男子のムンクが、幸せな家庭に生まれていたら、この『叫び』は生まれていなかっただろう」と分析する。
本書にはほかにも、名画の裏に隠された、巨匠たちの「諸事情」が詳らかに書かれている。ナカムラクニオさんの味のあるイラストも見どころだ。
目次は下記の通り。
溢れる情熱と人間不信 ゴッホ
絶望の美男子 ムンク
恋多き世紀末のダメ男 クリムト
女性遍歴を芸術に変えた男 ピカソ
破天荒な妄想系男子 シーレ
「野蛮人」になりたかった現実逃避男 ゴーギャン
超絶技巧の反逆児 カラヴァッジョ
爆発する女神に育てられた奇才 ダリ
つながった眉毛は自由な小鳥 カーロ
呪われた酔っ払い モディリアーニ
消えなかった父の呪縛 マグリット
美術史上最も愛されるジャンキー バスキア
そのほか、巨匠たちの「こじらせ人物相関図」や、コラム「こじらせ画家名鑑」も収録している。モディリアーニがピカソに借金をしていたことや、ピカソとミロが親友という名のライバル関係にあったことなどが描かれていて、興味深い。
エコール・ド・パリのダメ人間コンテスト。巨匠たちの「人間臭さ」を知れば、違った角度から芸術を楽しむことができるだろう。
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