「マウンティング」「マウントをとる」ということばを最近よく聞く。これらは自分が優位であることを周囲にアピールする行為。
人間を格付けするという点で、学校のクラス内の序列を表す「スクールカースト」も、根っこは同じかもしれない。
映画監督・脚本家・プロデューサーの柴田一成(しばた いっせい)さんの著書『スクールカースト復讐デイズ――正夢の転校生』(宝島社文庫)は、いじめの温床となっている「スクールカースト」と立ち向かい、残酷な現実を打破しようする中学生の物語。
あくまでフィクションだが、相当リアルである。
「岩崎が自殺したって」――。クラスメートから野口颯太(そうた)のスマホにメッセージが入った。
颯太は同級生・岩崎優也の唐突な死の知らせに固まった。するとどこからか、緊急を知らせる信号音が聞こえてきた。その音は、耳元でどんどん大きくなっていく。颯太は手を伸ばし、発信源をバチンと止めた――。
目を覚ました颯太は、スマホにメッセージがないことを確認し、安堵した。ただ、「嫌な気分だ。友達が死ぬ夢を見るとは......」と脱力したまま、しばらく動けずにいた。
中学2年の1学期が始まって2か月。その日もふだんどおり登校すると、なにやら優也の机に人だかりができていた。机を囲み、みんなで手を合わせていた。
「なんだ? 待ってくれ......もしかして......夢じゃなかったのか」
クラスメートたちは、固まる颯太を見てゲラゲラと笑いだした。なんでも、不登校の優也に対する嫌がらせで「葬式ごっこ」をしていたという。序盤から早速、不穏な空気が漂う。颯太のクラスでいじめが常態化していることをうかがわせる一幕だ。
優也が小学5年のときに転校してきて以来、ふたりは親友だった。中学生になると、颯太は新しい友達と遊ぶことが増え、優也はひとりでいるようになった。そして中学1年の終わり頃、優也に対するいじめが始まった。
颯太は優也のいじめに特に参加していなかったが、いつの間にか周囲の流れに身を任せるようになり、陰口に同調し、みんなに合わせて笑っていた。優也はだんだんと欠席するようになり、最近は不登校になっていた。
「同調バイアスと呼ばれる集団心理は恐ろしい。周りのみんながやっていれば、それが当たり前となり、それに合わせてさえいれば安心と思ってしまう」
それにしても、優也が死んだ夢を見たら、教室で「葬式ごっこ」が行われていたのはいったいどういうことか。颯太は「朝の夢との奇妙な一致」に気味の悪さを感じていた。
この日から、颯太の身に「不可解な現象」が度々起こり始める――。
ある日、颯太のクラスに藤村咲良が転校してきた。咲良は「みんながはっとするくらい」の美少女だが、笑顔はなく、担任から自己紹介を求められても無視。
「まさしく夢の中で見た少女と同じだった。実際に目の前にいると、さらにその存在感を増している」
夢が再現されている状況と咲良の態度に、颯太は唖然とした。思わず咲良の顔を凝視していると......「じろじろ見るなッ」と一喝。教室中が凍りついた。
その日から立て続けに、颯太は咲良が嫌がらせをされる夢を見る。咲良の動向を注視していると、やはり、夢で見た出来事がすべて現実に起こった。
「俺は今、小さな決心をしている。(中略)これは俺になんとかしろということなんじゃないかと、色々考えた末に辿りついたのだ」
日に日にエスカレートしていく咲良への嫌がらせを未然に防ごうと、颯太は奔走する。しかし、やることなすことすべて裏目に出る始末。そして、あるときから颯太もクラスメートの標的に。「一気に最下層に没落してしまったのだ」。
先生にも親にも打ち明けることができず、颯太は優也のもとへ向かう。今さら会いに行ったところで、話してくれないかもしれないが。
颯太がいつ「スクールカースト」をひっくり返すのかと、ソワソワしながら読み進めた。ところが終盤、ある人物が根本からひっくり返す展開に、驚くしかない。
「この一か月、頑張ってきた。少なくとも逃げたりはしていない。いじめられようが、トラブルが降りかかろうが、向き合ってきたんだ」
颯太は現実を変えることができるのか。そしてタイトルの「復讐」とは、いったい誰の誰に対する「復讐」なのか――。
■柴田一成さんプロフィール
1967年東京都生まれ。青山学院大学法学部卒業。パイオニアLDC(現NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン)入社後、制作職を経てフリーに。「もうひとりいる」(2002)で監督デビュー。「リアル鬼ごっこ」(2008)、「リアル鬼ごっこ2」(2010)、「がっこうぐらし!」(2019)などを監督。プロデュース作品に「渋谷怪談」(2004)、「蝉しぐれ」(2005)、「魍魎の匣」(2007)、「携帯彼氏」(2009)、「生贄のジレンマ」(2013)、「リアル鬼ごっこ」(2015)など。
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