韓国ドラマ『愛の不時着』などを扱った『韓国カルチャー 隣人の素顔と現在』(集英社新書)は、ドラマの紹介を超えて、韓国の社会と人々への理解を促す深みのある本だった。その続編にあたるのが、本書『続・韓国カルチャー 描かれた「歴史」と社会の変化』(集英社新書)である。
著者の伊東順子さんはライター、編集・翻訳業。1990年に渡韓。ソウルで企画・翻訳オフィスを運営。著書に『もう日本を気にしなくなった韓国人』(洋泉社新書)、『ビビンバの国の女性たち』(講談社文庫)など。
前著に比べ、ドラマよりも映画の比重が増えている。また、歴史や社会の変化に重点を置いている。とはいえ、Netflixで配信された数々の話題作の背景に触れているので、韓流ドラマファンの「副読本」として、お勧めしたい。
本書の構成と取り上げている主な作品は以下の通り。
第1章 韓国の学校教育を知る、ドラマ『今、私たちの学校は...』 第2章 韓国人が考える、「大人の責任」 『未成年裁判』 第3章 実は、大人たちの物語 ドラマ『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん』 第4章 映画でふりかえる「6・25朝鮮戦争」 『ブラザーフッド』など 第5章 イム・スルレが描く、生きとし生けるもの 映画『リトル・フォレスト 春夏秋冬』 第6章 『子猫をお願い』が描いた、周辺の物語 第7章 韓国の宗教事情を知る映画 『シークレット・サンシャイン』など 第8章 ドラマ『私たちのブルース』 第9章 ベトナム戦争と韓国ドラマ、そして映画 ドラマ『シスターズ』など 第10章 語られることのなかった、軍隊の話 ドラマ『D.P.-脱走兵追跡官-』 第11章 「タワマン共和国」 映画『はちどり』など 第12章 映画『別れる決心』とパク・チャヌク監督のこだわり 主題歌『霧』や中国朝鮮族のことなど
評者が見た作品を中心に、伊東さんの解説を紹介しよう。
ドラマ『今、私たちの学校は...』(2022年)は、ゾンビドラマだ。新型コロナから数年後に一地方都市で発生したゾンビウイルスが原因とされている。なぜ、ゾンビが高校に出現したかが最大のテーマだ。
これに関して、住む場所による貧富の差や暴力など「韓国社会の縮図」として高校が舞台になった、という韓国の人々の感想を紹介している。
韓国は一部を除いて、高校の学力試験による選抜はない。住む場所によって高校が決まる「小学区制」だ。だから、大学入試が人生初の大勝負になる。大学進学率が7割と日本以上の「学歴社会」だから、勢い競争は激しくなる。そんな高校生たちが、同級生によって次々とゾンビになっていくのだから、凄惨である。
また、このドラマを見て「セウォル号事件を思い出した」という声を取り上げている。2014年に韓国で起きた旅客船沈没事故で多くの高校生が犠牲になった。政府から見捨てられる高校生たちが、セウォル号事件と重なるようだ。
伊東さんは、この作品への評価は「スッキリしない」としながらも、コロナのパンデミック下で作られたことを評価。シーズン2を待ちたいとしている。
ドラマ『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん』は、2018年に韓国で放映され、2020年にNetflixで配信され、世界的に話題になった。主演は国民的人気歌手IU、おじさん役はイ・ソンギュン。映画『パラサイト 半地下の家族』での金持ち一家の父親役で知られる。
ドラマの舞台はソウルの中心部を流れる漢江をはさんで南と北に分かれており、「ソウルの南北問題」を象徴している、と指摘する。大企業のオフィスが集まり富裕層が暮らす新しい街「江南」と、旧市街が広がる「江北」は、東京の「山の手」と「下町」以上に対照的である。
ヤングケアラーである主人公とおじさんは偶然ながら「江北」の同じ町の住民だった。同じ町と言っても、彼女が住むのは「山の街」。山の上のバラックだ。「人はお互いに依存しあって生きている」ことを描いた秀作で、心に残る台詞が多いと、韓国では台本集が売れているそうだ。
ドラマ『私たちのブルース』(2022年)は、済州島を舞台にしたオムニバス形式のドラマで、主な登場人物14人が主役を入れ替えながら、全20話をリレーしていく。トップスター、イ・ビョンホンが「最高のろくでなし」を演じている、と評している。
済州島の暮らしの厳しさを表現するタッチはザラザラと粗いが、「空も海もブルーの色は明るい」。かつて民衆蜂起と武力鎮圧で多くの犠牲者が出た「4・3事件」が、この島であったことを、日本の視聴者も知っておいたほうがいい、と伊東さんは書いている。
ドラマ『シスターズ』(2022年)には、三姉妹の長女役を演じたキム・ゴウンの魅力も手伝い、評者もどっぷりはまった。だが、本書はベトナムで放送中断になった事情を詳しく解説している。
なぜ、韓国軍がベトナム戦争に参加したのか? そしてタブー化したのか? ドラマでもベトナム帰還兵たちの秘密グループが大きなカギになっていた。
韓国では文学でも映画やドラマでも歴史や社会とのかかわりが重視される。その一方で、「重苦しさ」を嫌う若い世代の関心が、日本の小説や映画・ドラマに向いているというニュースを最近目にした。
ともあれ、韓国の歴史と社会を知りたい韓流ドラマファンとしては、伊東さんに第3弾を期待するばかりだ。
BOOKウォッチでは、伊東さんの『韓国カルチャー 隣人の素顔と現在』(集英社新書)のほか、『人生を変えた韓国ドラマ 2016~2021』(光文社新書)、『ソウル25区=東京23区』(合同会社パブリブ)などを紹介済みだ。
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?