その街に行かなくてはならない。なにがあろうと――
〈古い夢〉が奥まった書庫でひもとかれ、呼び覚まされるように、封印された"物語"が深く静かに動きだす。
2023年3月1日、村上春樹さんの新作長編小説のタイトルと装幀が新潮社から公開された。作品のタイトルは『街とその不確かな壁』。装画は気鋭のイラストレーター、タダジュンさんが担当する。
本作は、『騎士団長殺し』(新潮社)以来、6年ぶりとなる四百字詰原稿用紙1200枚の長編小説。4月13日に新潮社より発売される。またこの作品は、村上春樹の長編小説としては初めて、刊行と同日に電子書籍が配信される。
物語のテーマやあらすじは明らかになっていないが、本書特設サイトには「その街に行かなくてはならない。なにがあろうと――〈古い夢〉が奥まった書庫でひもとかれ、呼び覚まされるように、封印された"物語"が深く静かに動きだす。魂を揺さぶる純度100パーセントの村上ワールド」という説明が掲載されている。
タイトル発表後、ネットでは、今回の新作とタイトルが酷似した中編小説「街と、その不確かな壁」との関係が取り沙汰された。1980年に文芸誌「文学界」にて発表され、その後単行本化されなかったことで、ファンの間では「幻の作品」とされている作品だ。長編小説『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(新潮社)の原型の一つともされる。
では、「街と、その不確かな壁」はどのような内容なのか。昨年12月に刊行された『対論 1968』(集英社新書)で、小説家・文芸評論家の笠井潔さんは次のように言及していた。
これまでの作品でほとんど唯一、単行本化されてない「街と、その不確かな壁」(「文學界」1980年9月号)という中編があって、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(新潮社、1985年)の習作みたいなものなんだけど、たしかに本人も言ってるように失敗作ではあるんです。しかしおそらくは、川口事件を引き起こすような早稲田の環境というものを、壁に囲まれてほとんど死んだようになってる〝街〟に仮託して書いてるんじゃないか......というふうに読めるんだよね。(笠井さん)
川口事件とは、1972年に早稲田大学構内で起きた集団リンチによる殺人事件のこと。BOOKウォッチでは、この事件を扱ったノンフィクション『彼は早稲田で死んだ』(文藝春秋)の書評<早大の「川口大三郎事件」を忘れない>を掲載している。村上春樹さんは、過去作『海辺のカフカ』(新潮社)の中でも川口さんをモデルにした人物を登場させた。
はたして、新作の内容はどうなるのか。発売日を楽しみに待とう。
■村上春樹さんプロフィール
むらかみ・はるき/1949年、京都市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。1979年『風の歌を聴け』(群像新人文学賞)でデビュー。主な長編小説に、『羊をめぐる冒険』(野間文芸新人賞)、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(谷崎潤一郎賞)、『ノルウェイの森』、『国境の南、太陽の西』、『ねじまき鳥クロニクル』(読売文学賞)、『海辺のカフカ』(世界幻想文学大賞、ニューヨーク・タイムズThe 10 Best Books of 2005)、『アフターダーク』、『1Q84』(毎日出版文化賞)、『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』、『騎士団長殺し』(第1部 顕れるイデア編、第2部 遷ろうメタファー編)がある。『神の子どもたちはみな踊る』、『東京奇譚集』などの短編小説集、『村上春樹 雑文集』『ポートレイト・イン・ジャズ』等のエッセイ集、『辺境・近境』等の紀行文、カーヴァー、サリンジャー、カポーティ、フィッツジェラルド、マッカラーズの翻訳作品など著書・訳書多数。海外での文学賞受賞も多く、2006年フランツ・カフカ賞、フランク・オコナー国際短編賞、2009年エルサレム賞、スペイン芸術文学勲章、2011年カタルーニャ国際賞、2014年ヴェルト文学賞、2016年ハンス・クリスチャン・アンデルセン文学賞、2022年チノ・デルドゥカ世界賞(フランス)を受賞。
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