本を知る。本で知る。

「行方不明者」のさまざまな人生。味わいある連作集。

残された人が編む物語

 失踪した人と残された家族の間には、深い溝が刻まれたまま時が流れていく。本書『残された人が編む物語』(祥伝社)は、行方不明者捜索協会の調査員、西山静香がかかわった5つのケースからなる連作集だ。

 静香がサポートすること以外に、5つの物語に共通点はない。登場する家族のさまざまな実相に現代の病巣を感じるかもしれない。

book_20220830171920.jpg

音信不通だった弟の素顔

 「第1話 弟と詩集」がせつない。53歳の主婦、上田亜矢子は母親の死を機会に音信不通になっていた弟、和也の消息を行方不明者捜索協会に依頼する。面談した調査員の西山静香は子ども時代の思い出を尋ねる。

 何がきっかけなのか、和也は突然キレる子だった。暴力をふるうことはなかったが、モノを投げたり、壊したり、中学生になると手がつけられなくなっていた。ある時、テレビを持ち上げようとしていた。

 「テレビはダメ」と亜矢子は叫ぶが、テレビの角が亜矢子の頭にぶつかり、亜矢子は右耳の聴覚を失う。亜矢子は高校を卒業すると、就職した会社の寮に入り、家を出た。3つ違いの和也は高校を中退して、工事現場で働くようになり、実家を出た。

 家を出てから、一切和也とは連絡を取らなかった。どこでどうしているのか。静香は念のために遺体で発見された身元不明者情報が掲載されている警察のホームページを見るよう勧めた。あるホームページに、昔、亜矢子が和也にあげた詩集と同じものが載っていた。

 川沿いのテントで発見されたホームレスの所持品だった。DNA鑑定の結果、弟であることがわかった。「そうか、死んでいたのか」と冷静に受け止めている亜矢子に、西山静香は「亡くなった方の物語」を知るために、晩年の暮らしぶりを調べてみよう、と提案する。

 ホームレスを2人で尋ね歩くうちに浮かび上がってきたのは、まったく亜矢子が知らない和也の姿だった。キレやすいのは変わらなかったが、理不尽なことに対しては行政にも怒りをぶつけ、仲間の命を守る頼りになる男だったという。

 また、以前住んでいたアパートの近くの定食屋では、店の子どもにクリスマスプレゼントをくれる優しい一面があったという話を聞いた。さらに昔、働いていたというビル建設現場近くのスナックでは、さまざまなエピソードとともに若い頃の写真も手に入れた。怒りが爆発しそうになると、亜矢子からもらった詩集を読んで心を静めようとしていたことも知った。

 亜矢子が右耳の聴覚を失ったのは、故意ではなく事故だと知っていながら、弟になにも声をかけてやらなかったことを亜矢子は後悔していた。

失踪した夫は10年前に死んでいた

 失踪者の知られざるいい面が後になってわかるという話の中で、異色なのは、「第3話 最高のデート」だ。銀行員の夫が突然失踪する。同僚の行員と不倫していたことが発覚し、異動が決まった矢先だったという。結婚前、同じ銀行に勤めていた関根由佳は、その後化粧品の訪問販売をして子供を養ってきた。

 10年後、ある県警の身元不明者情報のホームページに見覚えのある夫の時計の写真があった。行方不明者捜索協会の調査員、西山静香とともに警察を訪ね、その後、DNA鑑定で遺体は夫だと判明した。

 夫は失踪直後、山の中で自殺していたのだ。夫への怒りが湧いてきた。そして現実逃避するのは止めて、きちんと夫に向き合おうと思った。西山静香の提案で、妻としてではなく、フリーライターを名乗り、夫の以前の同僚から話を聞くことにした。出てくるのは酷い証言ばかりだった。

 「死んだ人を悪く言うのもなんですが、まぁ、嘘は吐きたくないですからね。言わせて貰いますよ。ヤなヤツでしたね。銀行にはたくさんヤなヤツがいるんですけどね。関根も他の行員と同じようにヤなヤツでした」
 「後輩の売上を横取りするなんてことまでしても、関根の成績は大したことなかったんです。だから関根は第一関門で敗者になりました。(中略)もう銀行での出世は望めないとなって、やけっぱちになったんじゃないですかね。これが不倫に走った理由の一つだったと俺は思いますよ」

 次から次へと夫をこきおろす発言が続く。不思議なことにあふれてくるのは、夫への怒りではなく、自分への怒りだった。現実逃避をしていた自分に気がつき、これからは自分の人生を大切にしよう、と由佳はある行動に出る。この後の顛末が実に痛快だ。

 「第5話 幼き日の母」は、西山静香自身のストーリーだ。静香の母もまた失踪者だったのだ。自分で物語をつくることで生きる支えをつくってきた静香。

 失踪者の捜索という地味なテーマで、まったく異なる趣きの作品を編んだ、著者の力量はなかなかものだ、と唸った。

 著者の桂望実さんは、1965年生まれ。会社員、フリーライターを経て、2003年、『死日記』で作家デビュー。2005年刊行の『県庁の星』が映画化されベストセラーに。著書に『恋愛検定』『僕は金になる』『終活の準備はお済ですか?』など多数。





 


  • 書名 残された人が編む物語
  • 監修・編集・著者名桂望実 著
  • 出版社名祥伝社
  • 出版年月日2022年6月20日
  • 定価1870円(税込)
  • 判型・ページ数四六判・338ページ
  • ISBN9784396636241

オンライン書店で詳しく見る(購入もできます)

小説の一覧

一覧をみる

書籍アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
もっと見る

漫画アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
もっと見る

当サイトご覧の皆様!

おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!

出版社の皆様!

御社の書籍も、
BOOKウォッチに
掲載してみませんか?