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6つの世界の物語が一つにつながる幻想奇譚。箱庭世界の不思議。

箱庭の巡礼者たち

 幻想小説というジャンルがある。2005年、「夜市」で日本ホラー小説大賞を受賞した恒川光太郎さんは、14年に「金色機械」で日本推理作家協会賞を受賞するなど、このジャンルを代表する作家の1人だ。最新作が本書「箱庭の巡礼者たち」(KADOKAWA)。6つの世界の物語が一つにつながる幻想奇譚だが、どれも味わい深い。

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 冒頭の「箱のなかの王国」にまず、惹きつけられた。主人公の内野少年が小学生の時に、大雨で川が氾濫し、家が浸水被害を受け、母が行方不明になる。ゴミの中から大きな黒い箱を見つけ、持ち帰ると、数日後、箱のなかに箱庭が出来ていた。ジオラマかと思ったが、そうではなかった。一種の立体映像のようなものだが、町には人間や動物がいた。翌朝、箱は空き箱に戻っていた。

 その日、母の遺体が見つかった。箱のなかを見ると、町にはたくさんの人がいて、母によく似た女性がいた。救いを求め、多くの時間を箱庭世界の観察に費やした。細かいところまで見ることは出来るが、音はなかった。また、中に触れることは出来なかった。

 異世界ものという小説のジャンルがあるが、それとは少し異なる。世界が見えるか見えないかは、少年の精神状態にスイッチがあった。空き箱だと思うと、世界は消えた。また、箱庭世界の時間の流れは違っていた。箱庭世界の1年は、この世界の4カ月だった。

 中学生になると、同級生の絵影久美が家に上がるようになった。少年が箱のなかが見えるか尋ねると、彼女には見えるようだった。2人で観察するのが日課になったある日、絵影は箱庭世界に潜む殺人鬼を退治するため、箱庭世界に入ると言い出す。箱庭世界には吸血鬼もいるのだが......。

 少年は止めるが、ある日家に帰ると置手紙があり、彼女は箱庭世界のなかに入っていた。観察すると、絵影は殺人鬼を退治し、娘たちを救い出した。その功績で彼女は町に受け入れられた。

 ある日、箱の持ち主だという老人が現れ、一緒に観察するようになる。箱庭世界の王国の政権交代には絵影が大きな役割を果たす。革命軍を率いる姿はジャンヌダルクのようだった。老人はかつて箱になかに入って行った娘に会うために、自分も箱のなかに入ると言う。そして少年に絵影へのメッセージはないか、と尋ねる。「君はすごいよ」と言おうとした少年は、自分は傍観者で、何もしていないことに気がつき、言葉を失う。

 老人が箱庭世界に消えると、箱は空き箱になった。

 「ぼくはぼくの心の箱庭に、初恋の幻影と、たくさんの夢と物語をしまい込み、人生を歩み始めた」という結びが、少年の成長を物語るようで、爽やかだ。

 この物語には「物語の断片1 吸血鬼の旅立ち」という続きがあり、絵影の末裔と吸血鬼との因縁が語られる。

 「一つの世界を箱とすればその箱の他にも他の世界、無数の箱が存在し、それらが一方通行、あるいは相互通行可能の秘密の細道で繋がっている」
 「俺たちの世界は25の世界と既に次元鉄道で結ばれ、それぞれの世界と交易しているし旅行もできる」

時を跳ぶ時計、自我を持つ有機ロボット......

 そんな世界の存在を提示し、また次の物語が始まる。「スズとギンタの銀時計」は、大正6年の大阪が舞台。一度に最小3時間から最大50年間時間を跳べる不思議な時計を手に入れた姉弟が主人公だ。不良グループに追われた弟を守るため、2人は昭和2年の東京に移動する。時間跳躍と土地売買を繰り返す......。

 このほか現代を舞台に、短時間だけ剝がれない接着剤によって逮捕される特殊詐欺グループや、自我を持つ有機ロボットが登場する未来世界などの物語が続く。どれもつながりがない断片のように思えるが、時空を超えて一つにつながっていることがやがて分かってくる。

 複雑な構成と論理に目くらましに遭ったような気分になり、一読しただけではなかなかこの世界観に慣れることは出来ないだろう。しかし、根気よく読み返すうちに、見えてくるものがある。

 多元的な世界の構造と歴史が理解できたような気になり、また冒頭の物語から読み返す。すると、箱庭世界に1人入って行った絵影の勇敢さが心を揺さぶる。奇想天外な仕掛けが施されているが、純な気持ちの大切さが伝わってくる。



 


  • 書名 箱庭の巡礼者たち
  • 監修・編集・著者名恒川光太郎 著
  • 出版社名KADOKAWA
  • 出版年月日2022年7月 4日
  • 定価1870円(税込)
  • 判型・ページ数四六判・346ページ
  • ISBN9784041116555

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