2018年に刊行された深沢潮さんの『かけらのかたち』(新潮社)が、文庫版として発売された。嫉妬や、その裏返しとしての優越感にどっぷりつかり、自分の幸せの形を見失ってしまった人々を描いた連作短編集。文庫版にはツイッターで人気のコラムニスト深爪さんの解説も収録されている。
たとえば、最初の一編「マドンナとガガ」はこんな話だ。年上の夫の友人を自宅へ招いた日、マドンナ気取りの女・優子が現れた。我が物顔で台所を使い、男たちに甘え、その上、私の知らない夫の前妻の話を振ってくる。好き放題な振る舞いに呆れながらも、成城育ちの夫や優子との格差を感じてしまう私。そのうち、今よりもずっと貧しかった元彼との生活が頭に浮かんできて――。
「梨奈ちゃんの実家って、茨城かどっかだっけ?」
「いえ、栃木です」さっき言ったばかりなのにと腹がたったが、感情を抑えて答える。
「あ、そうなの。私、東京生まれ東京育ちだし、駐在でスペインとシンガポール行った以外は成城界隈から離れたことなくって。栃木とか茨城とか、その辺区別つかないの。ごめんねえ」
ほか、「アドバンテージ フォー」「かけらのかたち」「ミ・キュイ」「まーくんとふたごと」「マミィ」などを収録している。
穏やかに見える人間関係の中にも、格差や嫉妬は確かに存在する。年の差恋愛の実態、夫婦間の葛藤、妊活の悩ましい現実。恋愛がうまくいっても、結婚できても、いつも新たに迷い、何かが問われている――現在進行形の不確かないまの、その先の生き方に気づいていく人びとの物語。SNSに書けない本音を暴く、痛快な短編の数々を楽しもう。
■深沢潮(ふかざわ・うしお)さんプロフィール
1966(昭和41)年、東京生れ。2012(平成24)年「金江のおばさん」で「女による女のためのR-18文学賞」大賞を受賞。受賞作を含む連作短編集『縁を結うひと』(『ハンサラン 愛する人びと』改題)を始め『ひとかどの父へ』『緑と赤』『海を抱いて月に眠る』のような在日の家族が抱える"答えの出ない問い"に向き合う作品や、現代女性の価値観に切り込む『伴侶の偏差値』『ランチに行きましょう』『かけらのかたち』などがある。他の著書に『乳房のくにで』『翡翠色の海へうたう』など。
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