「親になればわかる」とはよく言われるが、親になって初めて理解したこともあれば、いまだにわからないことも山ほどある。
コラムニストの深爪さんの著書、『親になってもわからない 深爪な子育てのはなし』(KADOKAWA)は、そんな子育て世代の気持ちを代弁してくれる、「笑って泣けてためになる」エッセイ集だ。
男の子と女の子、2人の子供を持つ深爪さん。2016年にTwitterでつぶやいた、こんな投稿が話題になった。
"「ベビーカーに荷物乗せてるヤツなんなの?ベビー乗せろよ」って意見を見るたびに、幼児というのは「余は歩きたい。降ろせ」「疲れた。乗せよ」「抱っこじゃ」みたいなのを10分置きに繰り返す生き物であると義務教育で教えるべきだと思う"
子連れだと、ちょっと外出するにも小旅行くらいの荷物になる。ベビーカーの持ち手に荷物をかけていると、子供が降りた途端に重しがなくなり、盛大にひっくり返る。ベビーカーを起こし、散らばった荷物を回収し、汚れをはたいている間、子供はじっと待ってなどいない。抱っこして片手でやるのは難しいし危険だ。だから、座面に荷物を載せることになる。電車の中でベビーカーを折りたたむのは、もはや離れ業だ。そうしたあれやこれやは、記者も親になって初めてわかったことである。
自身も独身の頃は、「人は子供を持つとバカになる」と「半ば本気で思っていた」という深爪さん。レストランで子供が騒いでいても、ほったらかしでスマホをいじっていたり、ママ友同士、狭い通路でベビーカーを並べておしゃべりに高じたり......。しかし親になり、さまざまなタイプのママ友と交流するうちに、「子供を持ったからバカになった」のではなく、「バカが子供を持っただけ」なのではないかと思うようになった、と言う。
<この手のモラルに欠けた人間は子持ち子無し、もっと言うと、老若男女問わず世の中にごまんといるのだが、「子供」というアイテムを持つことでそのバカっぷりが目立ってしまう。そのため、多くの人のなかに「子持ちは非常識」の刷り込みがなされるのではないだろうか。>(「人は子供を持つとバカになるのか」より)
世の中の批判はえてして、そうした「迷惑な親」には届かない。「子持ち」とひとくくりにされ、周囲に配慮している親ばかりが肩身の狭い思いをすることに......。
深爪さんはほかにも、「ひとりラーメン」のありがたみや「〇〇ちゃんママ」という呼び名にひそむ「うわべ感」、なぜか夫にイライラする理由など、親になって知ったことはたくさんあるという。子育て経験のある人には「わかるわかる!」のオンパレードだ。
一方で、親になってもわからないことは多々ある。
深爪さんは自身の母親を「べらぼうに性格の悪い人間だと思っていた」と書いている。子供のころから、やることなすこと否定され、褒められた記憶がない。おかげで自己評価が低い大人になったと自認する。
転んで怪我をしても、「ちゃんと前を向いて歩けっていったでしょ」と責められ、「痛い」と訴えても「そんなの痛くない」と否定され、ずっと「自分が悪いんだ」と思い込んでいた。「母のようには絶対にならない」と胸に誓い、子供たちがケガや病気をした時は、「大丈夫?」「痛かったね」と、気持ちに寄り添うよう心がけていた。ところが......。
娘さんが4歳のころ、家族で花火をした後で、様子がおかしいことに気付いた。「どこか痛いの?」と聞くと、娘さんは突然泣き出した。足の指をやけどしていたのだ。「怒られる」と思って言い出せずガマンしていたのだという。失敗を責めたことは一度もないのに、なぜ......と絶望的な気分になった深爪さん。よくよく自分の言動を顧みると、長男が忘れ物をしたり提出するプリントを紛失したり「本人に落ち度がありまくる」時は烈火のごとく怒っていたことに思い当たった。4歳の子供に落ち度の有無がわかるはずもなく、「失敗すれば怒られる」と学習してしまったのだろう、申し訳ないことをした、と後悔をにじませる。
<とはいえ、ランドセルの中で提出期限を過ぎたプリントを熟成させている子供を見つけたら、注意するのが親の責務ではないのか。"怒る"からいけないのか。"叱れ"ばいいのか。そんなのはただの言葉遊びじゃないか。誰か「正解」を教えて欲しい。>(「子育てに『正解』はあるのか」より)
その長男は、6年生の時に不登校になった。怒りや焦り、諦め、葛藤しながら3年が過ぎたいまの心境と体験談を「不登校児のトリセツ」として綴っている。<不登校児を抱えた母親の心構え>や<「見守ること」と「放置すること」の違い>など、いろいろ参考になるが、ここでは<クソバイスのあしらい方>を紹介しよう。
子供が不登校になったと聞くと、「ママの笑顔がいちばん! 焦らず信じてあげて」などと言う人がいるが、先が見えず苦しんでいる当事者にしてみれば、「いつまで?」と余計に落ち込んでしまう。深爪さんは、こうした「クソバイス」を食らわないためには、身近な人間に相談しないことがいちばん、誰かに聞いてほしい時は公共機関や第三者に相談するといい、と言う。赤の他人なら「この人、私のこと知らんしな、しゃあないわな」と受け流せる。どうしても身近な人に聞いてほしい時は、相手に助言を求めず、「吐き出すこと」を目的にするとよいと言う。
この「ママの笑顔がいちばん」というフレーズは、不登校に限らずさまざまな場面で母親を苦しめる。乳児期は夜間の授乳で常に睡眠不足。歩き始めても目を離せず、何一つ(トイレで用を足すことさえ)自分のペースでできない状況は幼児期も続く。ついイライラして子供にあたってしまい自己嫌悪......。そんな時に「世間は『ママはいつも笑顔でいなくちゃ』などと、親というものは子供を無条件で愛する完全無欠のイキモノであるかのようにプレッシャーをかけてくる」。
もちろんそれができれば理想だが、現実はそう簡単ではない。深爪さんは、そんなママたちの気持ちに寄り添い、肩の力の抜き方を教えてくれる。体験談から導き出された「正解」が書かれているわけではないが、葛藤や迷いが率直に綴られており、「自分だけじゃないんだ」とほっとする。
あとがきで深爪さんは、親になって身に染みてわかったことがある、と書いている。それは、「子供は血のつながった他人」であるということ。彼らの人生は彼らのもので、親はそれを尊重しなくてはならない。そのためにはまず、「母親だから」とやりたいことをあきらめず、自分の人生を大切に生きることが必要なのだ、と。
時に辛らつだが、歯切れよくユーモアのある文章で、読んでいて何度も笑い、何度もうなずき、時々ホロリとさせられた。子育ての正解がわかるのは20年後か、30年後か。いや、そもそも親が思う正解が、子供にとっての正解とも限らない。お母さんだって完全無欠じゃないし、いつも笑顔でなんかいられない。だからあんたも泣いても怒ってもいい、思うようにしていいんだよ、というスタンスで、ほどよい距離感を保っていけるといい。
■深爪(ふかづめ)さんプロフィール
1971年生まれ。コラムニスト。2012年11月にTwitterにアカウントを開設。独特な視点から繰り出すツイートが共感を呼び、またたく間にフォロワーが増え、その数19万人超(2021年12月現在)。二児の母業の傍ら、執筆活動をしている。著書に『深爪式 声に出して読めない53の話』『深爪流 役に立ちそうで立たない少し役に立つ話』『立て板に泥水』(KADOKAWA)、電子書籍著書に『深爪な愛とセックスのはなし』『深爪な家族と人生のはなし』『深爪な"誰にも話せない"お悩み相談』(KADOKAWA)がある。芸能、ドラマ、人生、恋愛、子育て、エロと執筆ジャンルは多数。
Twitterアカウント @fukazume_taro
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