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もし明日人生が終わるとしたら。崖っぷち30歳女性のやり直し描いたロングセラー。

今日のハチミツ、あしたの私

 「どこでも、何度でも、人はやり直せるし、変わっていける」――。

 この帯コピーに惹かれて手にしたのは、寺地はるなさんの『今日のハチミツ、あしたの私』(ハルキ文庫)。2017年に単行本として刊行され、19年に文庫化された。少し前の作品だが、今年5月にも増刷されて7万部を突破した。

 『三千円の使いかた』の著者・原田ひ香さんが推薦文を寄せている。

 「人はきっと、ひと匙のハチミツと誠実な気持ちがあれば、歩いていける。そしてこの本そのものが、ひと匙のハチミツです」

もし明日人生が終わるとしたら

 「もし明日人生が終わるとしたら、きっとわたしは、喜ぶ」――。

 中学生の頃の碧(みどり)は、「明日なんて来なければいい」と思っていた。それでも、「もうすこしだけがんばれるかもしれない」と思うこともあった。

 ある日、碧は見知らぬ女の人に声をかけられた。碧の荒れた唇と不健康な痩せかたを見て、心配しているようだった。「食べてますけど、吐いてしまうんです」。誰にも言わずにいたことを、碧はその女の人に言った。「みんなに嫌われてるんです」「卒業までの辛抱なので」とも。

 すると女の人は、「違うね」ときっぱり。「あなたこの先もずーっと、みんなに嫌われたまま生きていきそう」との不吉な予言をした。

 「あなた自身が、あなたを大事にしてないから。あなたがあなたを嫌っているから。だから周りの人はみんな、ますますあなたを大事にしないし、嫌いになる」

 硬直した碧に、女の人は「ごめんごめん」と笑った。そして「栄養が足りてないのよ、あなた。身体にも心にも」と言い、碧の手のひらに蜂蜜の小瓶をのせた。ラベルに「あさのはちみつ」と書かれていた。

あれから16年

 あの日、女の人は「蜂蜜をもうひと匙足せば、たぶんあなたの明日は今日より良くなるから」と言った。あれから16年。「彼女に命を救われたのだ」と、碧は今も思っている。

 碧は今年30歳。カフェを数店舗持つ会社に勤めている。同棲している恋人の安西は、仕事がなかなか続かない。ある日、たった1日で仕事を辞めてきた。さすがにガツンと言ってやりたくもなる。

 すると安西は、「俺、地元に帰ろうかと思う」と言った。父親が経営する会社を手伝うつもりだと。実家は隣県の朝埜(あさの)市にあり、朝埜は蜂蜜の産地だという。「一緒に行く?」と実質プロポーズされた碧は、「明日人生が終わるとしたら」と考え、一緒に行くことに決めた。

 会社に辞表を出し、アパートを解約。このままとんとん拍子に行くかと思いきや、またもや安西のダメさが露呈する。碧とのことを、父親になにも話していなかったのだ。不安なまま挨拶に行くと......。

安西父 「私は能無しの息子と何年もつきあっていたあんたも、同類だと思っている。男を見限るタイミングを逃したまま年だけ食った女だ」

碧 「わたしは能無しではありません。撤回してください」

 「じゃあ、証明してもらおうかな」と薄笑いして、安西の父親は碧にミッションを言い渡す。それは、養蜂家の黒江(くろえ)という男が滞納している地代を回収してこい、というものだった。

居場所は自分で手に入れる

 崖っぷちに立たされた碧は、やるべきことをメモに書いていく。

とりあえずごはんを食べる
一、黒江という男について調べる
二、住むところを見つける
三、仕事を見つける

 男は家で倒れていた。こんなかたちで死体を見るのははじめてと思いながら、碧は両手を合わせて顔を覗きこむ。その時、男の目がかっと見開かれた......。これが碧と黒江の初対面である。

 黒江は「ごく薄い、卵の内側の膜のようなものに隔てられているという感じ」の男だった。「あの膜をとっぱらいたい」と思い、碧は黒江に弟子入りを申し出る。

 そもそも碧が朝埜にやって来たのは、安西と結婚するためだった。ところが、結婚話は頓挫。では、飛び込んだ新しい環境で、自分はどうしたいか。碧は考え、選び、居場所をつかみとっていく。

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 「自分の居場所があらかじめ用意されてる人なんていないから。いるように見えたとしたら、それはきっとその人が自分の居場所を手に入れた経緯なり何なりを、見てないだけ」

 「目指して辿りついた場所であれ、たまたま流れついた場所であれ、そこで生きていくためにはしっかり自分の根っこをはらなきゃいけないのよねえ」

 読みながら、まちの風景、黄金色の蜂蜜が目に浮かんだ。ユーモアのあるいきいきとした文章が、とにかく魅力的。ある程度の年齢になって、自分の身にドラマが起こることなど諦めかけていたが、いや、諦めることはないと、希望が見えた。


■寺地はるなさんプロフィール

 1977年佐賀県生まれ。大阪府在住。2014年『ビオレタ』で第4回ポプラ社小説新人賞を受賞しデビュー。他の著書に『ミナトホテルの裏庭には』『月のぶどう』『みちづれはいても、ひとり』『架空の犬と嘘をつく猫』『大人は泣かないと思っていた』『正しい愛と理想の息子』がある。


※画像提供:角川春樹事務所



 


  • 書名 今日のハチミツ、あしたの私
  • 監修・編集・著者名寺地 はるな 著
  • 出版社名角川春樹事務所
  • 出版年月日2019年3月18日
  • 定価682円(税込)
  • 判型・ページ数文庫判・256ページ
  • ISBN9784758442404

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