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娘が撮る「老老介護」のリアル。認知症の母がくれた、最大の贈り物とは。

ぼけますから、よろしくお願いします。 おかえりお母さん

 「認知症の母(89歳)が突然の入院!? 変わらぬ愛で励まし続ける父(98歳)! 娘が描くほろっとしてほっこりが大反響の家族の物語」

 映像作家・信友直子(のぶとも なおこ)さんが、母・文子(ふみこ)さん(1929年生まれ)と、父・良則(よしのり)さん(1920年生まれ)の「老老介護のリアル」を娘の視点からつづった前作『ぼけますから、よろしくお願いします。』から3年。

 このたび、待望の続編『ぼけますから、よろしくお願いします。 おかえりお母さん』(ともに新潮社)が刊行された。刊行前に重版が決定した話題の1冊。両親のありのままの姿、両親の人間的な魅力を伝える娘のまなざしに、じんとくる。

 「父の対応には、要介護者を家族に抱えた人たちが心穏やかに暮らせるヒントが、いっぱい詰まっているんじゃないか? うちは本当に普通の家で、そんな普通の家族の老後の話だからこそ、誰にでもあてはまるメッセージとして受け取ってもらえるんじゃないか?」

社会問題が重なった信友家

 本書は、「母の異変」「認知症と向き合う」「我が家に介護サービスがやって来た!」「家族にしかできないこと」「介護は、親が命懸けでしてくれる最後の子育て」「父といつまでも」の構成。

 信友さんは仕事柄ビデオカメラを回す機会が多く、両親にも20年ほど前から被写体になってもらっていた。

 すると、ここ数年で信友家は、母の「認知症」、超高齢な父による「老老介護」、娘が東京と広島を往復する「遠距離介護」、娘が仕事を辞めて実家に帰るべきか悩んでいるので「介護離職」予備軍......と、「社会問題と言われるキーワードがいくつも重なる家」になっていった。そのことに気づいたとき、撮りためた映像を公表しようと思ったそうだ。

 信友さんが監督・撮影・語りを務めたドキュメンタリー映画「ぼけますから、よろしくお願いします。」は、2018年に動員20万人を超えるヒットを記録。第2弾となる映画「ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~」は、3月25日より全国順次公開予定。

父が案外「いい男」だと気づけた

 2014年1月、母がアルツハイマー型認知症と診断された。

 93歳の父に介護を担わせるのは酷だと思い、「私が呉に帰ってきた方がええかね」と信友さんが尋ねると、父は断った。「いや、あんたは帰らんでもええ。わしが元気なうちは、わしがおっ母の面倒をみるけん」。

 信友さんにとって「認知症からの最大の贈り物」は、「父が案外『いい男』だと気づけたこと」だったという。たしかに、父の「いい男」ぶりは、本書の至るところでひしひしと感じる。たとえば、母と父のこんなやりとり。

 「お父さんは、私が物忘れしよるけん、心配なん?」「お父さんは私が恥ずかしい? 迷惑な?」と母が出し抜けに聞くと、父はさらりと答えた。「たまたまがあんたが先に具合が悪うなったが、わしが先ならあんたに面倒見てもらうんじゃけん、お互いさまよ。気にすることはないよ。しょうがないことじゃけん」。

 「父はおそらく、母を介護しているという意識はあまりないのだと思います。ただ、母と一緒に一生懸命、毎日を生きているだけなのでしょう。60年間、夫婦で積み重ねてきた毎日を」

あえて正直に書いたこと

 最後に、信友さんが正直に書いた「母への率直な思い」にふれておきたい。

 チャーミングで、愛情深く、家庭人としても完璧だった母。信友さんがインドを旅行中に事故で重傷を負ったとき、乳がんを宣告されて乳房切除を前にめそめそしていたとき、何度も窮地を救ってくれた母。

 そんな母が、おもらししても知らん顔。指摘するととぼけ、そのうち「私はおらん方がええんじゃろ!」と逆ギレする。大好きだった母が「別人」になっていく姿に、信友さんの心は揺れた。

 「もはや認めざるを得ません。母が認知症になってから、私は努力しないと母を愛せなくなりました」

 もし母が死んだら......と想像しただけで絶望的になるほど母が大好きだった信友さん。このことは一種の「救い」になったという。

 「認知症の家族を抱えて悩んでいる方が、こんな考え方もあるのかと少し元気になってくださればと思い、あえて自分の中のどす黒い部分を正直に書きました。そして、私と同じように感じ、そんな自分を許せず自己嫌悪で苦しんでいる方には、『あなただけじゃないですよ』と伝えたい」

 文子さんと良則さんにすっかり親近感が湧いて、娘になった気分で読んだ。映像が目に浮かび、どこを切り取って紹介しようかと迷うほど、いくつもの場面が心に残る読書体験だった。


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■信友直子さんプロフィール

 1961年広島県呉市生まれ。東京大学文学部卒。森永製菓入社後、「グリコ森永事件」当時に広告部社員として取材を受けたことがきっかけで、映像制作に興味を持ち転職。制作プロダクションを経て現在はフリー。2007年に乳がんを発症し、その経験は2009年にセルフドキュメント「おっぱいと東京タワー~私の乳がん日記」(フジテレビ「ザ・ノンフィクション」)として放映。認知症の母と老老介護する父の記録は2016年から放送され(同「Mr.サンデー」)、2018年に映画『ぼけますから、よろしくお願いします。』となって上映された。両親のその後を描いた『ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~』が2022年3月より上映予定。


※画像提供:新潮社



 


  • 書名 ぼけますから、よろしくお願いします。 おかえりお母さん
  • 監修・編集・著者名信友 直子 著
  • 出版社名新潮社
  • 出版年月日2022年3月15日
  • 定価1,450円(税込)
  • 判型・ページ数四六判・190ページ
  • ISBN9784103529422

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