本を知る。本で知る。

新書大賞2022受賞、『サラ金の歴史』を読んでほしい理由。

サラ金の歴史

 本書『サラ金の歴史』(中公新書)は、「新書大賞2022」を受賞したばかりの話題作である。2021年サントリー学芸賞(社会・風俗部門)も受賞している。読みやすい新書の体裁を取りながら、学術書としての評価も高い良書である。「サラ金」と言えば、蛇蝎のごとく嫌われた過去を知る者として、驚くばかりだ。

book_20220216181602.jpg

 いま、「サラ金」という言葉が使われることはあまりない。「カードローン」と呼ばれるようになったからだ。個人向けの少額融資、消費者金融を意味するが、研究の対象として取り上げられることはほとんどなかった。社会問題化した当時に、新聞記者や弁護士がその内情を書いた本が多くあるが、本書は経済学の研究者が書いたのが異色だ。著者の小島庸平さんは、1982年生まれ。東京大学大学院経済学研究科准教授。著書に『大恐慌期における日本農村社会の再編成』(ナカニシヤ出版)がある。

 戦前の素人高利貸から質屋、団地金融を経て変化した業界は経済成長や金融技術の革新で急成長した。しかし、バブル崩壊後、多重債務者や厳しい取り立てが社会問題になり、追い詰められる。この1世紀に及ぶ消費者金融の歴史を追っている。

 金融機関による小口信用貸付として、サラ金の直接の源流と小島さんが見ているのは、安田銀行系列の日本昼夜銀行が1929年に始めた「サラリーマン金融」である。対象は公務員か「相当なる会社」に勤めるサラリーマンに限定され、連帯保証人を複数立てなければならなかった。

団地居住や大手企業勤務が信用になった

 結局、庶民が頼ったのが質屋だった。そして戦後、団地金融が生まれる。「団地の方なら信用させていただきます。お電話一本で御希望の現金を届けます」というキャッチフレーズで急伸した。

 「居住形態というノーコストで入る情報が、顧客の全信用情報を織り込んでいると判断し、大胆に金を貸し付ける」という、当時としては革新的な簡便な審査方法を導入したのが、成功の要因だった。だが、融資の対象を稼ぎ主の夫ではなく、主婦である妻だけに限定したことに限界があった。60年代半ばから団地金融に代わり、サラリーマン金融が急速に成長する。

 当初、融資対象を公務員か上場企業の社員に限定していたプロミスの創業者の言葉が印象に残る。「役所なり企業の入社試験が則ち当社の貸付調査である」。

 勤務先情報だけに基づいて融資するサラリーマン金融の誕生は、団地金融と並ぶもう一つの金融技術の「革新」だった。

サラ金に資金を提供した銀行

 サラ金に資金を提供したのは銀行だった。武富士の創業者、武井保雄が、金融機関の担当者を接待するため、「命懸け」で酒を飲み、東京相互銀行(後に東京相和銀行に改称、現・東京スター銀行)の会長だった長田庄一に出会ったエピソードを紹介している。同行をメインバンクにし、巨額の資金調達に成功し、短期間で業界最大手となった。

 各社は競って審査基準を緩和し、サラ金の大衆化が進んだ。2006年の改正貸金業法が成立した当時、サラ金の借入残高がある人は約1400万人、一度でも利用したことのある人は約2000万人もいた。

 貸し倒れを少なくするため、信用情報の共有化が始まった。不良債務者のブラック情報を共有する業界団体、日本消費者金融協会(JCFA)がつくられ、現在の日本信用情報機構(JICC)につながっている。

 しかし、サラ金の取り立てなどが社会問題となり、改正貸金業法が2006年に制定され(10年から完全施行)、いわゆるグレーゾーン金利は明確に否定された。金利は最高でも年20%に引き下げられた。過去に払い過ぎた金利は「過払い金」として取り戻せることが広く知られ、各社の経営は著しく悪化した。

 現在、アイフルを除く大手は、軒並み銀行グループの傘下に入っている。業界最大手だった武富士は、17年に会社更生の手続きを終えて倒産し、過払い金の返還を停止。駅前でティッシュ配りをしていたサラ金の社員の姿は、いまや過去の光景になってしまった。

 小島さんは本書を書いた動機を、こう書いている。

「なぜ純粋な営利企業であるはずのサラ金が、貧困層を金融的に包摂するに至ったのか。サラ金がセイフティネットを代替するという『奇妙な事態』が生まれた歴史的背景を、本書では考えてみたい」

 たとえ、サラ金を利用していなくても、銀行に預金している我々自身が、「究極的にはサラ金の金主だった」と小島さんは書いている。サラ金の問題を他人事ではなく「自分事」として認識することで、将来のあるべき金融や経済のあり方を議論してほしい、と終章を結んでいる。

 過去にサラ金を利用したことがある人は、苦い思いで本書を読むかもしれない。「それにしても、あの金は何に使ったのだろう?」と。旅行? 遊興? 生活費? 人々の欲望が拡大するのに合わせて、このシステムは発展してきた。カードローンと名前は変わったが、その構造は変わってはいない。




 


  • 書名 サラ金の歴史
  • サブタイトル消費者金融と日本社会
  • 監修・編集・著者名小島庸平 著
  • 出版社名中央公論新社
  • 出版年月日2021年2月25日
  • 定価1078円(税込)
  • 判型・ページ数新書判・344ページ
  • ISBN9784121026347

オンライン書店で詳しく見る(購入もできます)

ノンフィクションの一覧

一覧をみる

書籍アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
もっと見る

漫画アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
もっと見る

当サイトご覧の皆様!

おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!

出版社の皆様!

御社の書籍も、
BOOKウォッチに
掲載してみませんか?