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物理学者いわく、宇宙が美しい理由はたった3つ。

宇宙はなぜ美しいのか

 「宇宙はなぜ美しいのか」。そう聞いて、あなたは何を思い浮かべるだろうか。満天の星、天の川、流れ星。壮大で神秘的な宇宙の姿がたくさん目に浮かぶだろう。しかし、物理学者に言わせれば、宇宙の美しさは目に見えるものだけではない。東京大学国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構教授の村山斉さんが『宇宙はなぜ美しいのか カラー新書 究極の「宇宙の法則」を目指して』(幻冬舎)で語るのは、「宇宙の法則」の美しさだ。


 本書第1章では、宇宙と聞いて私たちが想像するような、惑星や星雲や銀河のスペクタクルが紹介されている。フルカラーの写真だけではなく、ページ内のQRコードから、木星に彗星が衝突する映像や、ブラックホールが合体する音(!)まで視聴できる。もちろんそれぞれの現象に関して、物理学者ならではの解説もあり、第1章だけでも十分楽しめる。

 しかし、第1章はほんの序章にすぎない。本書のメインは第2~5章。主役はこの宇宙の物理法則だ。登場するのは、目に見えない素粒子や正体不明の暗黒物質、重力、4次元、ビッグバン......。難しくて面食らう話も多いが、すべて理解しようとしなくても大丈夫。村山さんが伝えたいのは、たった3つの「美しさ」だ。それは、「高い対称性」「簡潔さ」「自然な安定感」。物理学者は、この3つに美を感じるのだという。

物理学者が感じる、3つの美しさ

 まず、「高い対称性」とは。「対称性」のあるものとして、左右対称なベルサイユ宮殿や、4方向から見た形が同じ東京タワー、さらに一周ぐるりとどこから見ても同じに見える東京スカイツリーが例に挙げられている。これらはすべて人工物だが、対称性のある形が「美しい」という感覚はわかっていただけるのではないだろうか。

 3次元でもっとも対称性が高い形は、球だ。スカイツリーは上下をひっくり返したら見た目が変わってしまうが、球はどこをどうひっくり返しても同じ見た目になる。そんな球の形をしているこの地球は、物理学者にとってはとても美しいものなのだ。

 「簡潔さ」はもっとわかりやすいはずだ。いくつもの式を必要とする法則よりも、1つの式で説明できる法則のほうが、すっきりしていて美しい。たとえば、みなさんご存じアイザック・ニュートンの「万有引力の法則」は、木から落ちるリンゴと地球の周りを回る月を、1つの理論で説明した。これはとても簡潔で美しい法則だ。

 最後に「自然な安定感」。これは村山さんもほかの2つより「主観的」と言っているのでピンときづらいかもしれないが、簡単に言えば、奇跡や偶然で成り立つ法則よりも、いつなんどきでも必ず成り立つ法則のほうが美しいということだ。条件が変わったら崩れてしまう法則は美しくない。以上3点、どこから見ても同じで、シンプルで、いつでも成り立つ。物理学者は、こんな物理法則を「美しい」と感じるそうだ。

 実は、この美しさは感覚だけの問題ではない。この「高い対称性」「簡潔さ」「自然な安定感」をかねそなえている法則は、そうでない法則よりも、実際に正しい可能性が高いのだそうだ。本書第2章からは、歴史上から今に至る物理学者たちが、「美しい」物理法則を追い求めるさまが解説されている。ニュートンがリンゴと月をつなげたように、バラバラの現象を1つの理論で説明しようと試行錯誤する姿は、まるで勇敢な冒険家のようだ。

物理学者の頭のなかを覗いてみよう

 記者の高校時代、数学の先生が問題の解答を「美しい」「エレガントですね」と言ったり、図形の角を指さして「可愛い」と言ったりして、生徒がポカンとしていたのを覚えている。なかには、うちの数学・理科の先生もそうだった! という方もいるのではないだろうか。あの先生が見ていたであろう「美しい」世界を、この本で覗き見ることができた気がする。

 専門的な話が多く、なかなか流し読みができる本ではないが、リニアモーターカーの仕組みや、スカイツリーの上と下では時間の流れが違う(!)などといった雑学も随所にちりばめられている。物理学者の頭のなかを知りたい方はぜひ。もちろん、本気で宇宙の物理法則に挑みたい方にもおすすめだ。


※画像提供:幻冬舎


  • 書名 宇宙はなぜ美しいのか
  • サブタイトルカラー新書 究極の「宇宙の法則」を目指して
  • 監修・編集・著者名村山 斉 著
  • 出版社名幻冬舎
  • 出版年月日2021年11月25日
  • 定価1320円
  • 判型・ページ数新書判 ・232ページ
  • ISBN9784344986404

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