新年になっても「眞子さま、小室さん」に対する女性週刊誌の報道が続いている。本書『なぜ眞子さまのご結婚はバッシングされたのか 皇室女子と「個人の意思」』は、著名な精神科医の香山リカさんが、この問題について様々な角度から分析したものだ。
基本的には専門分野を踏まえたアプローチとなっているが、社会評論家、皇室ウォッチャー、あるいは一人の女性としての視点もあり、説得力に富んだ内容となっている。
本書の帯には、「結婚に『国民の納得』が条件になる皇室女性という悲劇」「『駆け落ち婚』の衝撃」というキャッチコピーが付いている。
日本国憲法によれば、結婚は「両性の合意のみに基いて成立」することになっている。すべての国民は、「社会的身分又は門地」によって差別されない、とも。ところが、「皇室」が絡むと話がややこしくなる。「眞子さま、小室さん問題」もその一つだ。
この数年来、週刊誌やテレビの情報番組は二人の結婚についてセンセーショナルな報道を繰り返し、2021年はピークに達した。
本書は「これほどまでにこの二人の結婚に注目が集まったのはなぜなのか」という問題意識から、以下の章立てで、分析を試みている。
プロローグ ―― 複雑性PTSDの衝撃
第1章 〝お父さんっ子〟で「母の作品」としての眞子さま
第2章 眞子さまのご結婚はなぜバッシングされるのか
第3章 皇室女性という悲劇
第4章 バッシングしている人たちが知らない日本社会という病根
エピローグ ―― 私たちに問い返される「個人の意思」
宮内庁は2021年10月1日、眞子さまが小室さんと26日に結婚すると発表するとともに、眞子さまが複雑性PTSD(心的外傷後ストレス障害)の状態になっていることを明らかにした。
めでたい話と、精神的にダメージを受けているという話が、同時に発表されたことで、国民には驚きが走った。中には、宮内庁が事態の鎮静化のため、ちょっとオーバーに「複雑性PTSD」などという聞きなれない病名を持ち出したのではないか、と思った人もいたかもしれない。
本書によれば、「複雑性PTSD」は、2020年に初めて世界保健機関(WHO)が作成した疾病分類に登場した新しい概念だという。記者会見で、症状の説明をした精神科医の秋山剛医師は、香山さんも講演を聴いたり論文から多くを学んだりしている尊敬している精神科医の一人だそうだ。つまり、最新の学術的な知見に基づいた発表だったということがわかる。このあたりは専門家ならではの解説だ。
しかも眞子さまは、中学生のころから「誹謗中傷」と感じられる情報を目にしており、それが精神的負担になっていたという。つまり今回の「バッシング」の前から、「心的外傷」の積み重なりがあったかもしれないと、香山さんは指摘する。
このことは本書のもう一つのテーマである、「皇室女性のストレス」問題ともつながっていく。
よく知られているように、美智子さまは「お声が出なくなった」ことがある。雅子さまは「長く公務を休まれた」。本書は第3章の「皇室女性という悲劇」では、そのあたりにも踏み込んでいる。愛子さまに関しても、「学習院の『いじめ事件』」を取り上げ、その対応に雅子さまが大変な努力をしたことが詳しく紹介されている。
それにしても、なぜ皇室の女性がバッシングの対象になるのか。ジャーナリストの矢部万紀子さんは『雅子さまの笑顔』(幻冬舎新書)で、雅子さまのストレスが「男子出産の重圧」だったことを示唆している。そして、秋篠宮家の紀子さまについては、「41年ぶりの男子誕生という慶事で、『皇室の危機を救った』と評価されたが、それは一方で、『本来、長男の嫁である人の仕事を、次男の嫁がしてしまった』ことでもあったと指摘。「その落差にメディアがつけ込んだのだと思う」と、最近の「秋篠宮家たたき」を分析する。「紀子さまの表情を追うと、やはり悠仁さまの誕生以降、厳しくなっている」と書いていた。
本書では香山さんが自身の体験をもとに、類似の興味深い話を紹介している。香山さんは北海道出身。明治以降の本州からの移住者が大半だから、「先祖」や「家系」、「家制度」へのこだわりが薄い環境で育った。
ところが精神科医になり、埼玉県の病院に勤めるようになると、事情が違った。「いまだに残る家制度」を巡るストレスから、うつ病やパニック障害になった女性患者がたくさんいた。他県から県内の旧家に嫁いだりすると、地域の慣習が分からず、いろいろと厄介なことが起きる。その家ならではのしきたりに従うことも要求される。それができないと、「ヨソから来た嫁だから...」といじめられる。香山さんはこう書いている。
「民法は改正されて家制度はとっくになくなったけれど、日本人の価値観の中にはまだ、明治民法や『家督を守る』という概念がしっかり残っている」
日本で一番古い家、一番伝統のある家というのは「天皇家」だ。香山さんは明治民法の家制度じたいが、天皇を統率者とする天皇主権の制度を守るためにつくられた、ということを強調する。
ところが、今ではその順序が逆になっているのだという。「私の家を守らなければ」と思っている人たちが、その延長として「だから天皇家を守るべき」という考えに傾斜しがちなのではないか・・・。「家」を重視する人たちは、「家制度」の頂点にある「天皇家」の状況が何かと気になるというわけだ。
こうした「国民の声」を、立場上、重く受け止めざるを得なかったのが秋篠宮だとみる。眞子さまの結婚について、「多くの人が婚約、結婚について納得し、喜んでくれるという状況が必要だ」と発言したことがあった。皇族は、自分たちがやりたいように自分たちの気持ちだけで動くことはできない、という制約の中にあるという意見表明だ。その結果、眞子さまとの「親子対立」が生まれたと分析する。最終的に眞子さまは皇室経済法で定められた1億3725万円の「一時金」を辞退し、事実上の「駆け落ち婚」に突き進んだ。
以上のように本書は、「眞子さま問題」を、日本の「皇室女子」が不可避的に抱える難題としてとらえつつ、この問題は「皇室で生きる女性」にとどまらないことも指摘する。そこには、今の日本社会のいろいろな問題、日本社会で生きる家族や女性たちの問題が映し出されており、「眞子さま問題」は、日本の女性の多くが抱えている問題とダブる、というわけだ。そのあたりまで目配りしているところが、本書の特徴となっている。
読売新聞は21年10月4~5日、二人が結婚されることについて緊急全国世論調査を実施した。「よかったと思う」との回答は意外に多く、53%。「思わない」は33%。
18~39歳では「思う」が59%もあって、とくに多かった。眞子さまや小室さんに近い世代の人たちは、「眞子さま問題」は他人事ではない、ということを肌身で感じていたのかもしれない。
本欄では皇室関連で、『雅子さま論争』 (洋泉社新書y)、『天皇と戸籍――「日本」を映す鏡 』(筑摩選書)、『近代皇室の社会史』(吉川弘文館)なども紹介済みだ。
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