去年の今ごろは平成から令和に移るということで、世の中が少し浮足立っていた。その後、豪雨災害などもあって、祝賀パレードは先送りされた。そしてこのところの新型コロナウイルス。令和はなかなか大変な船出となっている。
というわけで、残念ながらあまりグッドタイミングとは言えないが、即位一年を念頭に置いて出版されたと思われるのが本書『雅子さまの笑顔』 (幻冬舎新書)だ。結婚、皇太子妃時代を振り返りつつ、「生きづらさを超えて」という微妙な副題を付けている。
著者の矢部万紀子さんは1961年生まれのコラムニスト。朝日新聞で学芸部を経て、「アエラ」、経済部、「週刊朝日」に所属。「週刊朝日」で松本人志のコラムを担当、連載をまとめた『遺書』『松本』(ともに朝日新聞出版)はミリオンセラーになった。「週刊朝日」副編集長、「アエラ」編集長代理を経て、書籍編集部で部長を務め、2011年、朝日新聞社を退社。シニア女性誌「いきいき」(現「ハルメク」)編集長などを経て、フリーに。著書に『美智子さまという奇跡』(幻冬舎新書)、『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』(ちくま新書)がある。
新聞と雑誌で硬軟の記者、編集者、編集長を務め、現在は各種メディアに寄稿するなど、活字マスコミの第一線で活躍中の人だ。
本書は長年の「皇室ウォッチャー」として、新たに「雅子さま」に焦点を絞り込んだもの。63年生まれの皇后とは年齢も近い。ほぼ同世代の「女子」による「雅子さま愛」を伝える内容となっている。
「弾けるような笑顔、華やかなファッション、外国賓客に対する堂々たる振る舞いと、日々輝きを増す皇后雅子さま。しかし、1993年のご結婚から今日までの道のりは、長く苦しいものだった。外交官から皇室へと新しい人生を選択したものの、男子出産の重圧にさらされ、生きる意味を見失った日々。そこからどう立ち直ってこられたのか? 失わなかった『普通の人としての感覚』とは? 雅子さま、そして愛子さまほか女性皇族にとって生きやすい皇室を考えながら、誰にとっても生きやすい社会のあり方を問う、等身大の皇室論」――というのが本書のうたい文句だ。
全体は、「第1章 不安から自信へ」、「第2章 ファッションに見る主張と継承」、「第3章 『アマチュア』という存在意義」、「第4章 秋篠宮家が示すもの」、「第5章 愛子天皇はあるのか」に分かれている。
矢部さんは、皇太子(当時)と小和田雅子さんの婚約騒動のころ、すでに週刊誌記者として記事を書いていた。雅子さまのファッションに関する記事も1993年から書いている。そうしたキャリアとミーハー的な要素も含めた細かい観察眼が、「スカーフからの長いトンネルを抜けて」「グレーのストッキングとお団子ヘア」など、「第2章」には凝縮されている。
本書では「第4章」で「秋篠宮妃紀子さま」にも触れている。周知のように一部週刊誌で長年「バッシング」にさらされている。そのストレスたるや、相当のものがあるだろう。矢部さんは1989年の婚約内定後の記者会見を振り返りながら、当時の川嶋紀子さんの初々しい姿を伝える。その後については次のような分析をしている。
「41年ぶりの男子誕生という慶事で、『皇室の危機を救った』と評価された。だがそれは一方で、『本来、長男の嫁である人の仕事を、次男の嫁がしてしまった』ことでもあり、その落差にメディアがつけ込んだのだと思う」「紀子さまの表情を追うと、やはり悠仁さまの誕生以降、厳しくなっている」
本書は随所に、このようなクールな見方も交えつつ筆を進める。元大手紙記者としての深読みとバランス感覚がうかがえる。
皇室は国民と共に歩むというのが基調になっている。ところが新型コロナでは「三密」を避けることが要請されている。イギリスのチャールズ皇太子はコロナに罹った。日本でも同様なことが起きないように、政府、宮内庁、警察は、これまで以上に神経質になり、公務を制限するに違いない。コロナの長期化も言われ、国内外が安定するには時間がかかりそうだ。天皇はもちろん、雅子さま、紀子さまを含めた令和の皇室は、しばらく大変な緊張状態を強いられることになるのではないだろうか。国民とはこれまで以上に「ソーシャル・ディスタンス」を強いられることになると思われる。
BOOKウォッチでは関連で『上皇后陛下美智子さま 心のかけ橋』 (文春文庫)、『エリザベス女王』(中公新書)、『近代皇室の社会史』(吉川弘文館)、『天皇陛下「生前退位」への想い』(新潮文庫)、『宮中五十年』(講談社学術文庫)、『秘録 退位改元――官邸VS.宮内庁の攻防1000日』(朝日新聞出版)、『明治大帝』(文藝春秋)、『皇子たちの悲劇――皇位継承の日本古代史』(角川選書)、『天皇と戸籍――「日本」を映す鏡 』(筑摩選書)なども紹介済みだ。
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