ジャーナリストの池上彰さんと作家の佐藤優さんが対談で、戦後日本の左翼の歴史を語り合うシリーズの第2弾が、本書『激動 日本左翼史』(講談社新書)である。副題が「学生運動と過激派 1960-1972」。いよいよ佳境に入り、学生運動が盛り上がる中、なぜ内ゲバが激しくなり、左翼は過激化し自滅していったのか。歴史の転換点を振り返っている。
前著『真説 日本左翼史』(講談社現代新書)が扱ったのは、1945年から1960年まで。日本社会党と日本共産党の対立と競争を軸に据え、社会党という傘の下で新左翼諸党派が発展してきたという新たな枠組みを示し、一定の支持を集めた。
テレビの温厚な顔しか知らない池上さんが、実に社会党に詳しいことにも驚かされた。若い頃は社会党の理論家が書いた論文をむさぼるように読み、ジャーナリストになってからも、特別な関心を持っていたそうだ。
第2弾を予告していたので、前著の読者が買いに走り、刊行されたばかりだが、すでにランキングに入っている。関心は「なぜ、新左翼運動は過激化し、自滅したのか」という一点だろう。評者もそれを知りたかった。
核心に入る前に、本書の構成に触れておこう。
序章 「六〇年代」全史 第1章 六〇年安保と社会党・共産党の対立(1960~1965年) 第2章 学生運動の高揚(1965~1969年) 第3章 新左翼の理論家たち 第4章 過激化する新左翼(1970~)
池上さんは慶応義塾大学経済学部に入ると、中核派にオルグされた。各セクトが群雄割拠していた当時の状況をこう説明している。
「フロント(社会主義学生戦線)は私が入学する前年に中核派にやられて三田に追いやられ、日吉は中核派、三田はフロントが押さえるという構図になっていました。キャンパスが別々だととりあえずは喧嘩にならないわけです。これは早稲田もそうでしたね。早稲田の場合は政経学部や法学部、商学部、教育学部などが集まっている本部キャンパスと文学部のある戸山キャンパスはほんの数百メートルの距離しか離れていないのですけれど、本部は革マルの牙城で、本部キャンパスは法学部だけが民青でした。それ以外の政治経済学部や商学部は、当時は社青同解放派が握っていましたっけ?」
これに対し、佐藤さんは「解放派が強かったのですけど、最終的にはあのあたりすべて革マルになっちゃいましたね」と答えている。京都の同志社大学出身の佐藤さんだが、東京の当時の状況についても実に詳しい。
池上さんは、革マルにもオルグされたことを明かしている。当時、複数のセクトから勧誘されることは珍しくなかった。内ゲバを理由に断ると、「革命の理想のために人を殺すことは許されるのだ」という「革命的暴力論」を延々と聞かされ心底からウンザリしたそうだ。
佐藤さんは「いざとなれば自分だけでなく他人を殺すことも躊躇(ためら)うまいと人に決意させてしまうほどの力をもつ思想というものが現実に存在することを知ってもらいたい」ことが、本書の動機である、と話している。
そして、社会を良くしたいという思想が「どういう回路を通ることで殺人を正当化する思想に変わってしまうのかを示したい」とも。
赤衛軍事件、大菩薩峠事件、よど号事件、連合赤軍と山岳ベース事件、あさま山荘事件と先鋭化し、仲間を殺し合う陰惨な結末を迎える。「政治的には全く無意味な運動だった」と佐藤さんは総括する。その後の日本人を「総ノンポリ化」させた罪は大きい。
佐藤さんは左翼にはある地点まで行ってしまうと思考が止まる仕組みがどこかに内包されている、と指摘する。また、人間のドロドロした部分、社会の不完全さを捨象することができないことが左翼の弱さの根本部分にあるという指摘は、ぼんやり考えていたことを言い当てられた気分がする。
学生時代に考えていたことがいかに頭でっかちであったかが、社会に出てわかるという経験を多くの人は持っているだろう。社会にはいろいろな人たちがいて、矛盾を抱えながら社会は回っていることに気がつく。
池上さんは「閉ざされた空間、人間関係の中で同じ理論集団が議論していれば、より過激なことを言うやつが勝つに決まっている」と説明する。これはナショナリズムについても同じことが言えるという。
革マルを含めた新左翼諸派を批判しながら、革マルのイデオローグだった黒田寛一の思想家としての側面を二人が高く評価しているのは意外だった。その「疎外論」に、多くの人が影響を受けたのは事実だろう。
第3弾も予告している。その後の日本の左翼運動の動向、社会党の没落について取り上げる予定だ。さらに明治以来の左翼史を出したいという野望があるそうだ。今後の展開が楽しみだ。
BOOKウォッチでは、『真説 日本左翼史』(講談社新書)、『トラジャ JR「革マル」30年の呪縛、労組の終焉』(東洋経済新報社)、『彼は早稲田で死んだ』(文藝春秋)などを紹介済みだ。
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