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池上彰と佐藤優が語る「左翼史」が今、売れている

真説 日本左翼史

 本書『真説 日本左翼史』(講談社新書)が売れていると聞いて、驚いた。なぜ、今「左翼」が注目されているのか? テレビのニュース解説でおなじみの池上彰さんと作家の佐藤優さんが対談した本である。「左翼」は何を達成し、なぜ失敗したのか。戦後、左派の巨人たちの足跡をたどりながら、忘れられた近現代史を検証している。

 なぜ、今「左翼史」を語るのか? 冒頭で、佐藤さんは「左翼の時代」がまもなく再び到来し、「左派から見た歴史観」が激動の時代を生き抜く道標の役割を果たすはずだ、と切り出している。

 池上さんも白井聡さんの『武器としての「資本論」』(東洋経済新報社)や斎藤幸平さんの『人新世の「資本論」』(集英社新書)が話題になったり、フランスでの「黄色いベスト運動」が広がったりする状況にふれ、格差の拡大が、左翼への関心の高まりを生んでいる、と見ている。

左翼の実像を伝えることができる最後の世代

 佐藤さんは、日本共産党が来年2022年に創立100年を迎えるにあたり、共産党の党史がそのまま左翼の歴史として流通してしまうことを懸念している。日本社会党や新左翼が果たした役割が埋没してしまうのを恐れているのだ。佐藤さんはこう語っている。

 「日本の近現代史を通じて登場した様々な左翼政党やそれに関わった人たちの行い、思想について整理する作業を誰かがやっておかなければ日本の左翼の実像が後世に正確な形で伝わらなくなってしまう。私や池上さんは、その作業を行うことができる最後の世代だと思います」

 本書の構成は以下の通り。

 序章  「左翼史」を学ぶ意義
 第1章 戦後左派の巨人たち(1945~1946年)
 第2章 左派の躍進を支持した占領統治下の日本(1946~1950年)
 第3章 社会党の拡大・分裂と「スターリン批判」の衝撃(1951~1959年)
 第4章 「新左翼」誕生への道程(1960年~)
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日本共産党の本質は今も「革命政党」

 共産党と社会党について、若い人があまり知らない事実をいくつも指摘している。1950年代に過激な武装闘争を訴える「所感派」と宮本顕治らの「国際派」に分裂。前者は山にこもって軍事訓練をする「山村工作隊」を組織した。

 池上さんは「中国共産党がまず農村部に革命拠点をつくって都市を包囲した、毛沢東のあのやり方を日本風にアレンジしたつもりだったんでしょうね。しかし日本の農村に若い連中が何人も移り住んできたところで当の地域住民たちは怖かったでしょうし、警戒させるだけだったでしょう。ひどく空回りしたことだろうと思います」と指摘している。

 この武力革命路線について、現在の共産党がどう総括しているか。「八十年党史」を引用し、「これらの活動に実際にひきこまれたのは、ごく一部の党員で、しかもどんな事態がおこっているかの真相は、これらの人びとにさえ知らされないままでした」と書いている。

 武装闘争は「分派」が起こした活動であり、現在の共産党に連なる人々は関与していないどころかその当時起きていたことについてほとんど何もしらなかったと総括しているのだ。

 しかし、佐藤さんは「敵の出方によっては暴力革命を行う」ということを書いた「極左日和見主義者の中傷と挑発」という論文を、絶版にすることなく、人目に触れさせないようにしているところに、「暴力革命政党としての『しっぽ』が現れてしまっています」と見ている。そして、こう書いている。

 「共産党が暴力的な路線に走ったことで一般の国民から遊離してしまい、それまで共産党に惹かれていた人たちが一気に社会党支持者になっていった」

 1955年、共産党は極左冒険主義を自己批判し、国際派の主導権のもとに再統一。一方、サンフランシスコ講和条約への賛否を巡って左右に分裂していた社会党も再統一する。このままでは、社会党政権が実現すると、財界は危機感を持った。自由党と民主党に一緒になるように働きかけ、自由民主党が結成された。いわゆる55年体制が完成した。

新左翼を育てた日本社会党

 直後の56年のフルシチョフによるスターリン批判、ハンガリー動乱が左派知識人を活性化させた、と池上さんは指摘する。日本の左翼の中で大混乱が起き、数年後の新左翼登場を準備したとも。

 佐藤さんは後に革マル派(日本革命的共産主義者同盟革命的マルクス主義派)の最高指導者となる黒田寛一の『スターリン主義批判の基礎』を紹介している。

 彼ら新左翼の中には社会党に加入することで仲間を増やす「加入戦術」を取ってところもあり、佐藤さんは「社会党という大きな傘の下に様々な新左翼セクトが集まることがなければ、実は安保も盛り上がらなかった」と書いている。社会党の、こうした特殊な位置づけを指摘しているのが、本書の持ち味だろう。

 佐藤さんは、高校2年から大学2年まで、社会党を支える青年組織である社青同(日本社会主義青年同盟)の同盟員だったことを明らかにしているが、池上さんも社会党について、実に詳しいことに驚いた。若い頃は社会党の理論家が書いた論文をむさぼるように読み、ジャーナリストになってからも、特別な関心を持っていたそうだ。

 歴史に学び、過去の過ちを繰り返さないようにと企画された対談は、続きが予告されている。68年頃に盛り上がった学生運動、内ゲバ、連合赤軍などが引き起こした重大事件などを検討することになる。陰惨な記述が多くなるだろうが、二人がどう「総括」するのか、続きを早く読みたい。



 


  • 書名 真説 日本左翼史
  • サブタイトル戦後左派の源流 1945-1960
  • 監修・編集・著者名池上彰、佐藤優 著
  • 出版社名講談社
  • 出版年月日2021年6月20日
  • 定価990円(税込)
  • 判型・ページ数新書判・229ページ
  • ISBN9784065235348

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