ごく普通の人が、あっけなく最下層に。
新型コロナウイルスによる貧困の拡大は、ごく一般的な中間層にも壊滅的な被害を与えている。8月2日発売の書籍『コロナ貧困 絶望的格差社会の襲来』(毎日新聞出版)は、そうしたコロナによる貧困の生々しい実態を伝えている。
著者の藤田孝典さんは、1982年生まれのソーシャルワーカー。生活困窮者への支援などをするNPO法人「ほっとプラス」を2011に立ち上げ、貧困問題の最前線で活動を続けてきた。
日本で新型コロナウイルスが確認されてから1年余りの時間が経った。本書によると、その間、仕事もお金も住まいも失う人々が増加の一途をたどっているという。
藤田さんのもとにも、多い日には1日で100件を超える相談があった。なかには「死にたい」と訴える相談者もいたという。こうした現状に危機感を抱き、その実態を広く社会に伝えるべく、本書を執筆したそうだ。
本書の構成は以下の通り。
第1章 コロナ禍が浮き彫りにした貧困と格差
第2章 コロナ禍で窮地に追い込まれる女性たち
第3章 コロナが明けたら美人さんが風俗嬢やります――「ナイナイ岡村風俗発言」を検証する
第4章 コロナ禍の貧困危機から命と暮らしを守る――支援・相談窓口
第5章 誰一人取り残さない社会を実現する
貧困問題を解決するために大きな障害となっているのは、多くの人が「自分とは無縁」だと考えていることだといわれている。生活保護へのバッシングが良い例だろう。自らが貧困に陥るとは考えずに、「貧困は自己責任」として、生活保護を受ける人へ容赦のないバッシングを加える人がしばしばいる。
しかし本書によると、コロナ禍においては、そうした自己責任論が全く通用しない事態が起こったという。これまで生活困窮者になるとは全く思われなかった人たちまで、コロナ禍によって貧困に陥ってしまっているそうだ。
たとえば、本書はある夫婦の話を紹介している。夫は運送業、妻は飲食店でそれぞれ働き、世帯年収は1000万円ほど。子どもたちはまだ高校進学や大学進学を控えていて、さらに月17万円の住宅ローンも抱えている。そんな中、コロナの影響で夫婦のいずれも仕事がなくなり収入が約3分の1に激減し、生活が立ち行かなくなってしまった。
また、年収800万円を超える大手旅行代理店の課長も、コロナ禍の影響で整理解雇されてしまった。幸いなことに失業保険は出たものの、大学生の子ども2人の学費を払うことができなくなってしまった。
いずれの事例でも、コロナ禍が無ければ貧困に陥ることはなかった。生活に困窮するとは思われていなかった人たちにまで、コロナ禍の影響が及んでいる。誰もが貧困に陥るかもしれない異常事態が、いま目の前で起こっている。
本書で藤田さんは、「これを機に、社会にはびこる自己責任論をたたき潰したい」として、こう綴る。
「これほどまでに大量の生活困窮者が出るということは、私たちが築き上げてきた社会のどこかに歪みがあるのではないかと、この機会にぜひ現実を見つめ直していただきたい」
日本社会に潜む自己責任論の病は、コロナ禍を機に変わるのだろうか。
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