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コロナの後の巨大地震に備えて、遷都と道州制が必要だ!

「首都感染」後の日本

 本書『「首都感染」後の日本』(宝島社新書)のタイトルを見て、多くの人は新型コロナウイルスが首都圏で爆発的に流行した後の日本はどうなっているのか、について書かれた本だと思うだろう。しかし、タイトルに偽りがある訳ではないが、そうではない。本書は、コロナ後に必ず来る東京直下型地震、南海トラフ地震などの巨大災害への備えを訴えた本だ。

 著者は2010年に近未来小説『首都感染』(講談社)を書いた作家の高嶋哲夫さん。高嶋さんは日本原子力研究所研究員などの経歴があり、1979年には日本原子力学会技術賞を受賞している元エンジニア。『メルトダウン』で第1回小説現代推理新人賞、『イントゥルーダー』で第16回サントリーミステリー大賞を受賞している。

予言の書としてコロナ後に増刷

 『首都感染』は、20XX年、中国のへき地で致死率60%の強毒性インフルエンザが発生し、ちょうど中国でサッカーW杯が開かれ、世界中から集まっていたサポーターがウイルスと共に帰国し、パンデミックが発生、そのとき日本は......という内容だ。

 発売から10年で3万数千部だった部数は、コロナ後に「予言の書」と注目され、数カ月で14万部が増刷された。小説では非常に毒性の強いウイルスという設定だが、現実の致死率はそこまで高くはない。高嶋さんは「恐れるな、しかし侮るな」と冷静に科学的な判断に基づいて行動するよう訴えている。

 今回のコロナ禍で明らかになったのは、貧弱な日本の危機管理能力、IT後進性、「東京目線」のコロナ対策とその限界だったとし、いずれ起こるとされている東京直下型地震、南海トラフ地震の被害を最小限に抑えるための方策を提言している。

首都移転と道州制をセットで

 高嶋さんは2014年に『首都崩壊』(幻冬舎文庫)という本を書き、「東京一極集中」から脱却するため、首都移転について問題提起した。

 昨年(2020年)の緊急事態宣言と今回の緊急事態宣言にはあまり強い強制力はない。しかし、仮に欧米のようなロックダウンが首都圏に発令されれば、首都圏だけではなく日本全体が麻痺し、大きな経済的損失が発生するだろう。

 東京直下型地震、南海トラフ地震が首都圏を直撃すれば、実質的にそうした事態も起こり得る。それを回避するには、首都移転と道州制をセットで行い、「新しい日本の形」を造るしかない、というのが高嶋さんの主張だ。

 本書では、これまでの政府機関の地方移転をめぐる経緯を以下のようにまとめている。

1950年代 学会などを中心に首都機能移転を求める提案が出始める
  88年 東京23区内にある約70の政府機関の移転を閣議決定
  90年 衆参両院が国会などの移転を決議
  92年 国会等移転法が成立
  99年 政府審議会が「栃木・福島」、「岐阜・愛知」、「三重・畿央」の3地域を候補地として答申
 2003年 衆参両院の特別委員会が候補地絞り込みを断念
  06年 首都機能移転担当相のポストが道州制担当相に変更

 これを見ると、80年代に社会問題になっていた東京を中心とする地価高騰の鎮静化も期待できるとして遷都論が浮上したが、候補地の絞り込みすらできず、世論も盛り上がらなかった。また、バブル崩壊による財政問題も深刻化し、国会の移転は事実上、立ち消えになった。

 本書には書かれていないが、第三次安倍内閣の主要政策「地方創生」の目玉として、いくつかの省庁の移転案が急浮上、その結果文化庁が2022年度以降に京都市に移転することになった。

 「首都移転」と言っても、現実的な政治的課題になっていないことは明らかである。

 高嶋さんは『首都崩壊』で、岡山県の吉備高原を新首都の候補にしていた。・自然災害が少ない・位置的に日本の中ほどにあり、交通の便がよい・十分な土地がある、などを理由に挙げていた。本書では、吉備高原を候補地とまで書いてはいないが、以下のような思いがある。

 「実際に遷都を目指すとなれば、多くの高いハードルがありますが、具体的な候補地を掲げないことには、議論が進まないのも事実です」

 高嶋さんは、「コロナで分かったことのひとつは、日本は狭いようで広かったということです。感染状況の格差が、如実にそれを示しています。地震と津波で太平洋岸が大きな被害を受けても、日本海側、あるいは内陸に人口と企業が分散していれば、被害を受けた地域を支えることができます」として、47都道府県という小さな経済単位ではなく、1道7州に近隣の県がまとまって、自立できる地域を作ることを提案している。

 コロナはいずれ収束するだろう。しかし、科学的知見から必ず発生が予想される巨大地震。政府が動かなければ、企業が先導することもあり得る。日本がこのままでいいのか、クライシス小説の第一人者が、小説ではなく「提言」として書いた内容は示唆に富む。

  • 書名 「首都感染」後の日本
  • 監修・編集・著者名高嶋哲夫 著
  • 出版社名宝島社
  • 出版年月日2020年12月15日
  • 定価本体880円+税
  • 判型・ページ数新書判・191ページ
  • ISBN9784299012012

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