読むべき本、見逃していない?

新聞も新聞の原稿も列車で運んだ時代があった

こんなものまで運んだ!日本の鉄道

 年末に本書『こんなものまで運んだ!日本の鉄道』(交通新聞社新書)を読み、いささか感慨を覚えた。かつて鉄道が運んだ、いろいろなモノ、新聞、郵便物、荷物......。荷物と貨物の違いを知らない人も多いだろうが、個人で荷物を鉄道で送るのは普通のことだった。ほとんどなくなった荷物輸送に比べ、貨物輸送は、意外に最近は増加傾向にあるという。ヒト以外に焦点を当てたユニークな鉄道本だ。

荷物と貨物の違い

 民営化以前の国鉄の時代には、モノを運ぶのは荷物輸送と貨物輸送があった。乗客の手荷物を運ぶサービスが鉄道創業時からあった。評者も東北の田舎の駅からたびたび利用した。「チッキ」と言って、急行などの荷物室に積まれた。上野駅で下車するときに受け取った。

 荷物を運べるとなると、乗客が携行しなくても荷物だけを送りたいというニーズが出てくる。これが「小荷物輸送」だ。

 一つひとつの荷物をまとめて車両に積み込む荷物輸送と違い、貨車を1両単位で借りて、ここに物資を積み込んで運ぶのが貨物輸送だ。

 トラック輸送が普及する以前は、国鉄の貨物輸送が日本の物資の輸送を担っていたと言っても過言ではない。

 鉄道本の多くは乗客が乗る列車や電車を対象にしたものだ。最近は貨物列車のファンも増えてきたが、本書は荷物にも目配りした珍しい本だ。

 著者の和田洋さんは1950年生まれ。東京大学文学部卒。新聞社勤務を経て現在は会社役員。鉄道友の会客車気動車研究会会員。著書に『「阿房列車」の時代と鉄道』『客車の迷宮』(いずれも交通新聞社)など。

かつて新聞は鉄道で運ばれた

 1974年に新聞社に入った頃のことを書いている。当時一番最初に製作する朝刊は6版といったそうだ。「午後6時頃に印刷する新聞」という意味だ。午後7時05分発の青森行きの急行「八甲田」に積み込むため、夕方までのニュースしか入らなかった。

 評者はある新聞社の福島支局に勤務したが、当時9版というのがあったのを覚えている。逆算すると、午後8時頃までのニュースしか当地に配達される新聞には入らなった。8時を過ぎると飲みに出たり、警察官の自宅に取材に行ったりしたものだ。

 そんな牧歌的な時代も各社が東北各地で現地印刷を始めると終わった。東京の本社同様に午前0時までのニュースが入るようになった。12版になった。遅くまで警戒するようになり、「労働強化」と言われたものだ。国鉄の列車による新聞輸送も終わった。

「猛獣・ヘビ」以外は動物も運んだ

 本書の構成は以下の通り。

 第1章 似て非なるもの=荷物・貨物輸送
 第2章 複雑怪奇な輸送の仕組み
 第3章 一筋縄ではいかない動物輸送
 第4章 変わった貨車と特大・長物輸送
 第5章 鉄道は文化も運んだ
 第6章 貴重品輸送は気をつかう
 第7章 鉄道と不可分だった郵便輸送
 第8章 異常時に発揮される鉄道の底力

 現金輸送もあったし、商売敵のトラックも運んだ。「猛獣・ヘビ」以外は動物も運んだ。「鮮魚特急」は準急列車も追い抜いた。まだ長距離のトラック輸送がなかった時代、国鉄が運ばなけらばならない「使命」があった。

 現金は紙幣を詰めたトランクを荷物車に積み込むが、特に警備員がいた訳ではなかった。1981年3月10日、北海道の函館駅で数分間の空白を利用した現金詐取事件があったことを紹介している。

 札幌市に本店のある北洋相互銀行(現在の北洋銀行)で函館支店から松前支店に現金5000万円を輸送する途中、函館駅で偽車掌に奪われたのだ。現在まで未解決だという。

 荷物輸送は縮小をたどり、1986年には郵便輸送も全廃される。

見直される貨物輸送

 民営化後、JR貨物が貨物輸送を担うことになった。トラックに押されて不調かと思いきや、意外に健闘している。また、東日本大震災などの災害時に迂回ルートを使い、物資を運んだことでその役割が見直されている。

 物資の運搬量は増える一方で、トラックの運転手の確保が難しくなり、二酸化炭素の排出量の減少をめざす国策や企業の動きもあり、鉄道貨物へのシフトが増えている。

 本稿ではあまり貨物輸送にふれることは出来なかったが、本書ではかつて操車場で行われた作業などを詳しく書いている。

 今はコンテナが主流になり、拠点から拠点への貨物列車が主流になり、貨物輸送の姿も変わった。国鉄時代の荷物・貨物輸送を知りたい人にとっては格好の書であろう。

 評者の思い出話で締めよう。まだ現在のようなファクスがなかった時代、不急の原稿はバック便という袋に詰めて列車に託した(もちろんニュースは漢電システムで即座に送ったが)。東北本線福島駅午前0時過ぎの上り急行津軽に乗せて、一日の仕事は終わった。40年ほど前の話である。

  • 書名 こんなものまで運んだ!日本の鉄道
  • サブタイトルお金にアートに、動物......知られざる鉄道の輸送力
  • 監修・編集・著者名和田洋 著
  • 出版社名交通新聞社
  • 出版年月日2020年12月15日
  • 定価本体900円+税
  • 判型・ページ数新書判・199ページ
  • ISBN9784330084206

オンライン書店で詳しく見る(購入もできます)

デイリーBOOKウォッチの一覧

一覧をみる

アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
もっと見る

当サイトご覧の皆様!

おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!

出版社の皆様!

御社の書籍も、
BOOKウォッチに
掲載してみませんか?