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「もの忘れ」or「認知症」どっち?

60分でわかる! 認知症対策

 親、配偶者、自分もいつか認知症になるかもしれない。ただ、そもそも認知症についてよく知らない。「いつか」が来たときに調べればいいか。そうのんきに構えていたが......。

 本書『60分でわかる! 認知症対策』(技術評論社)は、「いつか来る! その前に知っておきたい」情報を網羅した認知症ガイドブック。親、配偶者、自分にあてはめて読みながら、いざそうなったときのシミュレーションができる。

 「どんなに健康に気をつけて長生きしていても、平均寿命に近い年齢なってくれば認知症は誰にでも起こりうるものなのです」

 厚生労働省の予測によると、認知症の人は「2025年に65歳以上の人口の5分の1」「2060年に65歳以上の人口の3分の1」になるという。いつまでも他人事というわけにはいかなそうだ。

知識0でもよくわかる

 「もしかして認知症?」と気づいたときの初期対応、投薬、介護によって、認知症の症状や進行は変わるという。また、家族にとって介護労働や費用負担は待ったなし。事前に対応を考えておくことが肝心のようだ。

 本書は「なぜ起こる? 治療法は? 介護は? お金はどうする?」「予防、早期発見から治療まで、いまできることはなにか?」「認知症の困った周辺症状、出てきたらどう対処する?」「本人と家族が幸せになれる介護、そのための情報を知る!」など、認知症に関する68項目をフルカラーで解説している。

 1項目につき、2ページの構成。左ページに解説文、右ページに解説文のポイントをまとめた図・イラストを掲載。知識ほぼ0の状態から読みはじめたが、十分わかりやすい。

Part1 高齢者の5人に1人!? 認知症について知ろう
Part2 もしかして認知症? 初期対応で大切なこと
Part3 認知症診療のいま! 医療でできること
Part4 生活で変える! 認知症の予防、症状の軽減
Part5 社会保障を徹底活用! 家族を救う制度とお金
Part6 介護うつにならない! 認知症介護の適切な対応

 本書は「親や配偶者が認知症になったときに備えておきたい」「認知症の医療や介護サービスについて知りたい」「認知症のしくみや予防・軽減法を知りたい」という人が求める情報を、ほぼカバーしているのではないだろうか。

 著者は、ファンメディケーション株式会社。セルフメディケーションに関する正しい情報が人から人へ伝わる社会を構築し、「知らなかった」で不幸になる人を1人でも少なくすることを事業目的とする。医療系国家資格を有するライター陣が中心となり、メディアなどの企画編集を行う。監修は、ふくろうクリニック等々力の理事長・院長である山口潔氏、同クリニック臨床心理士・公認心理師の内山愛子氏、えなぽん社会福祉士事務所社会福祉士の河合唱氏が担当している。

「もの忘れ」と「認知症」の違い

 はじめに、「001 認知症ってどんな病気?」から。「認知症」は病気の名前ではなく、「頭痛」「腰痛」のような症状を表す言葉。正式には「アルツハイマー型認知症」「血管性認知症」など、原因となる病気に応じて区別されているという。

 年をとれば誰でもある程度のもの忘れはあるが、その状態が続くと「認知症かも?」と気になってくる。ただ、「もの忘れ」と「認知症」には大きな違いがあるというのだ。その違いとはなにか?

 「『忘れた』こと自体を本人が自覚できているかどうか、それにより生活に支障が出ているかどうかという点です。これが認知症の診断基準になります」

 つまり「認知症」とは、「記憶」「注意」「判断」「言語」などの脳の知的機能が、疾患、外傷、器質的な障害により低下したことで「生活に支障をきたす状態」を指しているのだという。

 「認知症は一般的に『物忘れや判断力の低下により生活に支障が出た状態』といわれています。物忘れが多くても生活に支障なく過ごせている場合は認知症ではありません」

体験したこと自体を忘れる

 「004 記憶のどの部分を忘れたかで判断する」では、3カ月前に有名レストランで食事をした例を挙げている。

 典型的な「もの忘れ」の場合、なにを食べたかを思い出すことができない。しかし、一緒に食事した人が「あの盛りつけが素敵だったじゃない」とヒントを与えると「ああ、あのメニューね」と思い出すことができる。

 一方「認知症」の場合、レストランに行ったこと自体をすっかり忘れてしまい、食事したことを思い出すことができない。

 「認知症の場合、記憶の一部を忘れるのではなく、体験したこと自体を忘れてしまうという特徴があります」

 この差は、記憶するときの「1覚える」「2保持する」「3引き出す」のうち、どの段階で障害が起きているかによるという。

 加齢による「もの忘れ」では、「3引き出す」の機能が低下しているが、記憶は残っている。そのため、「3引き出す」のきっかけがあれば思い出すことができる。

 一方「認知症」では、「1覚える」「2保持する」の機能も低下している。そのため、記憶自体がなくなり、日常生活に支障が出てくるのだという。

日常生活でできる脳活

 「038 日常生活の中でできる認知症予防トレーニング」の「2つ以上のことを同時進行でやってみる」も参考になる。

 たとえば、「散歩」と「詩の創作」を組み合わせた「散歩しながら詩を作る」。これは脳の運動を司る領域と思考を司る領域を同時に使うため、認知機能が刺激される。こうした認知症予防の脳活を「デュアルタスクトレーニング」と呼ぶそうだ。

 「2つ以上のことを同時に行えば、脳の情報処理能力や判断力、理解力、目的遂行能力の低下を防ぐことができます」

 このほか「テレビをみながらメモする」「絵日記をつける」「ラジオを聞きながら掃除する」など、日常生活には案外「デュアルタスクトレーニング」があふれている。

 ここでは紹介しきれなかったが、ほかにも「認知症を悪化させない3つの習慣」「発症リスクが半減する認知症予防食とは?」「介護で疲れる前に知っておきたい介護保険制度のこと」「認知症の人にかける言葉」など、知っておきたい情報が盛りだくさん。

 しっかり読もうとすると「60分」以上かかるが、親や配偶者の認知症にいつか直面するかもしれない、まさにいま直面している......など、本書はどの時点にいる読者にとっても助けになるにちがいない。



 


  • 書名 60分でわかる! 認知症対策
  • 監修・編集・著者名ファンメディケーション株式会社 著/山口潔、内山愛子、河合唱 監修
  • 出版社名技術評論社
  • 出版年月日2020年8月19日
  • 定価本体1100円+税
  • 判型・ページ数四六判・160ページ
  • ISBN9784297115258

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