親が認知症になり、介護をどうしようかと悩んでいる人は多いだろう。本書『認知症介護と仕事の両立ハンドブック』(経団連出版)は、仕事と介護を両立させるヒントに満ちた本だ。
著者の角田とよ子さんは、社会福祉法人浴風会介護支え合い電話相談室長などを経て株式会社wiwiwキャリアと介護の両立相談室長。『介護家族を支える電話相談ハンドブック 家族のこころの声を聴く60の相談事例』などの著書がある。浴風会病院精神科医の須貝佑一さんが、本書の医事鑑定をしている。
記憶のしくみ、認知症とは、早期発見・早期対応のポイント、治療薬、薬以外の治療など第1部は認知症の基礎知識について説明している。
認知症の人の記憶の特徴として、近い過去から忘れていく、今と過去が混乱する、未来のことを覚えられない、強い感情をともなった記憶は忘れにくい、などを挙げている。
「第5部 認知症予防、症状改善Q&A」で、認知症の人と家族の会の「家族がつくった『認知症』早期発見のめやす」を紹介している。
【もの忘れがひどい】 ・電話の相手の名前を、いま切ったばかりなのに忘れる ・同じことを何度も言う、問う、する ・しまい忘れ、置忘れが増え、いつも探し物をしている ・財布、通帳、衣類などを盗まれたと人を疑う 【場所・時間がわからない】 ・約束の日時や場所を間違えるようになった ・慣れた道でも迷うことがある 【判断・理解力が衰える】 ・料理、片づけ、計算、運転などのミスが多くなった ・新しいことが覚えられない ・話のつじつまが合わない ・テレビ番組の内容が理解できなくなった 【人柄が変わる】 ・些細なことで怒りっぽくなった ・周りへの気づかいがなくなり頑固になった ・自分の失敗を人のせいにする ・「このごろ様子がおかしい」と周囲から言われた 【不安感が強い】 ・一人になると怖がったり寂しがったりする ・外出時に持ち物を何度も確かめる ・「頭が変になった」と本人が訴える 【意欲がなくなる】 ・下着を替えず、身だしなみを構わなくなった ・趣味や好きなテレビ番組に興味を示さなくなった ・ふさぎ込んで何をするのも億劫がり、嫌がる
早いうちに専門医を受診して、軽度認知障害(MCI)と診断されたなら、これから先の認知機能の低下を遅らせることができるという。
病院の選び方、本人への受診の勧め方、受診と認知症の検査、診断後に家族がすべきことなどが流れを追って書かれている。
「第2部 介護をプロジェクトにする」が仕事をしている人の参考になる。介護で仕事を辞めてはいけない、と強いメッセージを送っている。
介護離職のデメリットは、経済的不安が増す、自分のキャリアやライフプランが見通せない、閉塞感、孤独感で心身の負担が大きいなどを挙げている。
私事で恐縮だが、評者も少し思い当たることがある。認知症ではなかったが、10年前、介護を念頭に会社を退職し、郷里で一人暮らしをしている母親と同居した。いいケアマネジャーと出会い、適切な施設を利用することが出来たため、介護での悩みはあまりなかったが、むしろ自分自身の精神状態に参ってしまった。閉塞感と経済的不安に襲われたのだ。施設を積極的に利用すると割り切り、ふたたび上京し働くことでなんとか切り抜けることが出来た。
角田さんは「認知症介護を、恩返しや親孝行と情熱的にとらえずに、プロジェクトとして取り組む」ことを勧める。その際は、だれが(Who)、どこで(Where)、いつ(When)、何を(What)、なぜ(Why)、どのように(How)、いくらで(How Much)の5W2Hをイメージすればいいという。職場で培った仕事のノウハウは親の介護にも応用できる。介護プロジェクトを進めるうえで大切なのは、まず最初にケアチームが集まり、目的や進め方、役割分担を話し合うことだ、と指摘する。
「第3部 実践 認知症介護」、「第4部 公的支援の仕組みと介護休業法」に具体的な対応が詳しく書かれている。ハンドブックと銘打っているだけに、これ一冊を読めば、仕事をしながらでも認知症介護が出来る、と安心するだろう。
角田さんは、一人ひとり違う人間が認知症を呈して、一人ひとり違う人間が仕事と両立しながら介護をするとして、「みんなちがってみんないい」と書いている。いま悩んでいる人を勇気づけるメッセージだ。
BOOKウォッチでは、同様の趣旨のエッセイ、『子育てとばして介護かよ』(株式会社KADOKAWA)などを紹介済みだ。
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?