読むべき本、見逃していない?

「デモ老人」は認知症になりにくい!?

老活の愉しみ

 安部公房、加賀乙彦、渡辺淳一など医学部出身の作家は多い。本書『老活の愉しみ――心と身体を100歳まで活躍させる』 (朝日新書)の著者、帚木蓬生さんもその一人だ。医者や作家の経験を踏まえつつ、「終活」ではなく、「老活」という視点で、老後の人生の過ごし方をアドバイスしている。

多数の文学賞を受賞

 帚木さんは1947年生まれ。東京大学文学部を卒業し、いったんTBSに務めたが、退社。九州大学医学部卒業。精神科医として診療に携わりながら、執筆活動を続けている。1993年『三たびの海峡』で第14回吉川英治文学新人賞を受賞して全国的に名前が知られるようになる。その後、95年『閉鎖病棟』で山本周五郎賞、97年『逃亡』で柴田錬三郎賞を立て続けに受賞し、2010年には『水神』で新田次郎文学賞を受賞している。マスコミの世界も体験し、医師、作家を掛け持ちしながら社会とかかわり続ける多能な人だ。

 本書は何か小難しいことを書いているわけではない。高齢化社会になって、いかに自分の老後の人生を豊かに過ごすか、そのことが社会にとっても意義があることだということを改めて説いている。

 わかりやすい話として25年後の日本のことを書いている。65歳以上が全人口の4割になり、75歳以上が2割。100歳以上の人は10万人を超えるだろう。平均寿命はさらに延びているに違いない。

 しばしば指摘されることではあるが、帚木さんも、平均寿命と健康寿命の違いを強調している。日本の平均寿命は男女とも80歳台だが、健康寿命は2016年時点で男性は72.14歳、女性は74.79歳にとどまる。平均寿命と比べると差がある。男性は約9年間、女性は約12年間の「不健康期間」、すなわちもはや健康とはいえない「老後」がある。

老人も「就活」「婚活」が可能に

 75歳以上の後期高齢者の4人に1人は、7種類もの薬を処方されているという。その結果、後期高齢者の使う医療費は、1人当たり年間90万円にもなり、65歳未満の人たちの1人当たり医療費の5倍にもなっている。

 日本の社会保障給付費は、2018年で約116兆円。うち医療費は約38兆円。その6割を高齢者医療が占めている。高齢者による国の出費を増大させないためには、上記の「不健康期間」を限りなくゼロに近づける必要がある。

 一方で、国民総金融資産は1800兆円にのぼる。その6割は60歳以上の人たちが所有している。高齢者の不健康期間が延びれば、その一部は医療や福祉でも使われることになるが、このままだと大部分は埋蔵金化する。

 高齢者が元気で動けば、これらの埋蔵金が生きてくる。高齢になっても自己啓発や再教育に投資される。人材として活用されれば、医療費は抑制され、資産も有効に使われて、社会全体にプラスになるというわけだ。すなわち、「老活」があれば、高齢でも「就活」や「婚活」も可能になる。

アルツハイマーに抗う

 以上のように本書は、日本の老人と老後の状況を大まかにスケッチしつつ、それではどうすればいいかという各論に入っていく。全体は15章に小分けされている。

 「第三章 筋肉こそが日本を救う」「第四章 この世で大切なのは歯」では、筋力や自分の歯を長持ちさせる大切さを強調する。そのためには「第七章 食がすべての土台」だ。さらに「第八章 酒は百薬の長にあらず」「第九章 タバコは命取り」で節制を説く。自身が60歳で白血病を経験し、克服しているので、健康法には説得力がある。

 「第五章 眠るために生きている人になるな」「第六章 脳は鍛えないと退化する」と、体力だけでなく知力の鍛錬も続けることを勧める。

 長生きと共に避けられないのが認知症だ。現在、世界で約5000万人。その1割が日本人だという。平均寿命が長いと、どうしても認知症のリスクも高まる。様々な要因が指摘されているが、知的活動を続けることで、アルツハイマー病の病理変化に拮抗する能力を獲得できるという研究があるそうだ。認知症の発症を大幅に遅延させうるのだという。これはアメリカの修道女を対象にした研究でわかっている。生前、認知症の症状がなかったが、死後の脳の解剖では認知症の病変が進行していたことが判明した85歳の修道女がいたという。老いても修道女として真摯に活動を続けたことが、認知症の進展を食い止めていたというわけだ。帚木さんが「脳を鍛える」ことを重視する理由だろう。

 たしかに、書道や俳句や短歌をたしなんでいる人は、高齢になっても、しっかりしている人が多いような気がする。そもそも、主として女性が担っている家事は、段どりなどでけっこう頭を使う。しかも、台所仕事や食材の買い出しは立ちっぱなしなので、運動にもなる。女性の寿命が長い一因かもしれない。

 日本では近年、若者が社会問題に無関心で、デモや集会では老人が目立つという。これも、見方を変えれば、ある種の健康法なのかもしれないと思ったりした。



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  • 書名 老活の愉しみ
  • サブタイトル心と身体を100歳まで活躍させる
  • 監修・編集・著者名帚木蓬生 著
  • 出版社名朝日新聞出版
  • 出版年月日2020年4月13日
  • 定価本体810円+税
  • 判型・ページ数新書判・256ページ
  • ISBN9784022950673

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