AI社会になって、職を失わないだろうか? 文系の自分でも、AIでキャリアアップするには? そうした不安や疑問を持っている人に勧めたいのが、本書『文系AI人材になる』(東洋経済新報社)である。
著者の野口竜司さんは、立命館大学政策科学部卒業。さまざまなAIプロジェクトにかかわり、その後ZOZOグループに。現在ZOZOテクノロジーズVP of driven business アラタナ取締役。自身も文系AI人材だという。
本書は次の3つのルールで書かれているので、文系の人でも安心して読むことが出来る。
1 プログラミングや統計・数理的なことの中身に触れない 2 AIの専門用語を極力使わない 3 できるだけ多くの事例を入れる
野口さんは「AIは表計算ソフトExcelくらい誰もが使うツールになる」という。AI技術が一般化した今、「AIをどう作るか?」よりも「AIをどう使いこなすのか?」が課題になっているからだ。むしろビジネスの現場を知っている文系AI人材の出番だと強調している。
本書の構成は以下の通り。
1 AI社会で職を失わないために 2 文系のためのAIキャリア 3 AIのキホンは丸暗記で済ます 4 AIの作り方をザックリ理解する 5 AI企画力を磨く 6 AI事例をトコトン知る 業種別×活用タイプ別の45事例集 7 文系AI人材が社会を変える
AIをゼロベースから作らなくても、「構築済みAIサービス」の増加により、AIを使えればいいケースが増えてきたのだ。もちろんデータサイエンティストやAIエンジニアという理系AI人材は、AIを「作り」、「本番稼働AIシステムの構築」や「AIシステムの運用管理」をするが、それらの仕事以外の「AI活用に必要なすべての仕事」は文系AI人材が行うことになる。
文系人間が「AIと働くチカラ」を身に着けるには、AIのキホンを知り、AIの作り方を知り、AIをどう活かすか企画する力を磨き、AIの事例をトコトン知ることが求められる。本書の3~6章はこのステップに対応している。
AIの歴史や8つの活用タイプを押さえた上で、文系に必要なAI基礎用語をよく出る順に列挙している。
「学習と予測、教師あり学習と教師なし学習、目的変数と説明変数、アルゴリズム、過学習、アノテーション、時系列モデル、データ前処理、PoC、ニューラルネットワーク、正解率と再現率・適合率、AUC」
本文では図やチャート付きで詳しく説明している。これらを丸暗記すれば、AIのプロジェクト会議に参加してもやりとりに付いて行けるだろう。
5章の「AI企画の5W1H」の考え方も参考になる。「WHEN いつまでにどう用意する?」「WHO 誰のためのAI?」「WHY なぜAIが必要?」「WHICH どのタイプのAI?」「WHAT どんなAI?」「HOW どう分業する?」。
たとえば「WHO 誰のためのAI?」では、顧客、取引先、従業員のいずれかの対象に絞った上で、さらに対象を絞り込む、としている。
本書の白眉は6章で紹介している豊富な事例だ。企業名を挙げ、業種別×活用タイプ別AIのマトリクスに落とし込み、さらに本文で解説している。ローソンのAIによる新規出店判断、日経新聞の100年分の新聞記事をAIで読みとり精度95%、佐川急便のAIで配送伝票入力を自動化など、多くの事例を読むと、AIがすでに社会のさまざまな現場に導入されていることがわかる。
「最終章 文系AI人材が社会を変える」では、AIが消費者、会社、働き手に対して大きな変化を起こしていく、と指摘している。本書では触れていないが、コロナ禍によって、働き方、暮らし方などが変わろうとしている今、さらに大きな変化が生まれるのではないだろうか。
話は変わるが、来年の大学入試で、理系ではデータサイエンス関連の学部・学科の人気が高くなると予測されている。またすでに入学した文系学部の学生でもデータサイエンス関連科目の履修が増えているそうだ。そうした人材が社会に出て戦力になれば、AIを知らない文系サラリーマンは将来、淘汰の対象になるかもしれない。今から本書などを読み、備えておくことが必要だ。いまだにExcelを使えない人ならなおさらだ。
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