AI(人工知能)の進化で社会が大きく変わろうとしている。その波は消費や交通に関することなど、わたしたちの生活に身近なところにも及んでいる。銀行や証券、保険会社の独占状態だった金融業界でも、デジタル化やインターネットの普及で垣根がなくなり、輸送・運輸業界などと同じくIT企業の影響力が強まっている。2019年は東京オリンピックの前年。進められているキャッシュレス化などで大きな変化が起こることも予想される。本書『AIが変えるお金の未来』(文藝春秋)は、今後さらに存在感を増すとみられる「フィンテック」予習に最適な一冊。
インターネットが進化して、すべてのモノがウェブでネットワーク化される「IoT(モノのインターネット化)」も定着する。それによって収集された「ビッグデータ」をAIを始めとする高度な技術で分析し、さまざまに利用することがすでに行われている。これら最新のIT(情報技術)と金融が結びついて新たに生まれた技術革新を表す造語が「フィンテック」だ。
金融業界ではこれまで、主要プレーヤーである銀行、保険会社、証券会社が長きにわたって巨額の費用を投じて店舗や人員を配置して地域ごとに、また全国レベルでネットワークを構築。新規参入は困難で既存のプレーヤーが市場を独占してきたものだが、インターネットの進化に伴い流通やメーカーなど異業種からの参入がみられるようになり、情報処理や通信の大容量化、高速化で、プレーヤーの顔ぶれは新旧合わせて多種多彩になっている。
「フィンテック」は、キャッシュレス化や仮想通貨、AIを駆使した消費予想などでも使われる技術だけに、変化は金融業界にとどまらない。たとえばキャッシュレス化が進んでいけば「お金」のありかたも大きく変わる。本書によれば、個人がスマートフォンとインターネットを通じて常に「接続」状態になったことで、スマホで決済した消費などさまざまな行動が記録され、企業がこれらの顧客ビッグデータを奪い合う事態になっている。また、ビットコインの登場による仮想通貨ブームは、国が発行する従来の法定通貨の地位をも揺るがし始めているという。
本書は、毎日新聞経済部の坂井隆之副部長、宮川裕章記者らと中堅・若手記者による取材班が「フィンテック元年ともいえる」という17年と18年に、まだ不確実性が高い金融業界の未来像の輪郭を描こうと国内外の流れを追いかけた記録であり、それをもとに、10年後、20年後にまでわたって社会、経済に考えを巡らせたという。エピローグで描かれた「2035年4月某日」の物語では主人公の男性が、頭でちょっと考えただけでもあらゆるデータや情報を表示してくれるゴーグルを装着して過ごす様子が描かれる。
フィンテックによる、わたしたちに最も身近な変化の一つはキャッシュレス化だ。海外からの訪問客の増大が見込まれる東京オリンピック・パラリンピックを前に政府は、観光立国の実現のためとして「キャッシュレス環境の飛躍的改善」を図ろうとしており、金融業界、IT業界、小売業界などを巻き込んでの動きが急となっている。
本書によれば、メガバンクではキャッシュレス化に向け独自のデジタル通貨の発行を模索している。三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の「MUFGコイン」と、みずほフィナンシャルグループの「Jコイン」。前者はビットコインなどと同じ仮想通貨としての発行が構想されているのに対し、後者は、電子マネーに近いものという。MUFGコインが仮想通貨として構想されているのは、プリペイド式の電子マネーだと100万円を超える送金が法律で規制される可能性があるため。
MUFGもみずほも、そしてデジタル通貨発行の基盤技術開発を進めているという三井住友フィナンシャルグループも「規格が異なるものの乱立は利便性を損なう」ということで一致はしていても、統一化については平行線という。
3メガバンクグループは、それぞれのデジタル通貨はとりあえず脇に置き、18年に入ってから歩み寄りを進めQRコードを使った決済での協力で一致。「規格を統一したQRコードを使ってのスマホによる決済・送金の普及に連携して取り組む」ことで合意した。この動きには、中国のアリババによる決済サービス「アリペイ」が国際的にプレゼンスを高めていることへの警戒もあるとされる。
QRコードを使った決済は、金融機関に先駆けて、アリペイをはじめIT系企業の取り組みが国内外で先行。無料通信アプリの「LINE(ライン)」や、ネット通販大手の楽天、それにNTTドコモも18年4月から参入した。メガバンクや、これらIT系企業のほか、いわゆるITプラットフォーム企業も決済サービスを提供しており、利用者がほかのアプリをすでに使用していることによる抵抗感の低さで優位に立つという。
「キャッシュレス」といえば、鉄道系の「Suica(スイカ)」や「PASMO(パスモ)」などIC型の電子マネーならともかく、いま各社のテレビCMが盛んにオンエアされているスマホ決済サービスに不明や不安を感じている人も多いという。本書では、だれでも簡単、安心して使える統一システムの先行例としてスウェーデンの取り組みを紹介している。
同国の大手6行が共同で12年に運営を開始した決済アプリ「スウィッシュ」。携帯番号と銀行口座がひも付けされ、店舗での支払いや個人間の送金が瞬時にできるという。サービス開始当初の利用者は65万人だったが、その便利さからいまでは国民の半数以上の550万人が利用しているという。若年層(19~23歳)の利用率は95%にもなる。スウェーデンでは、米国などの決済サービスが上陸して有力になる前に手を打とうと銀行間で連携が進んだもの。本書では、日本の銀行や金融機関、関連企業がグズグズしていると、中国アリペイなどに遅れをとる可能性を指摘している。
J-CAST BOOK ウォッチではこれまで、AI関連書籍として『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社)や『人間の未来 AIの未来』(講談社)のほか 『あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠』(インターシフト) 『AIが人間を殺す日 車、医療、兵器に組み込まれる人工知能』(集英社)などを紹介している。
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