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偏差値57、MARCH合格率80%・・・わたしAIです

AI vs. 教科書が読めない子どもたち

 少子高齢化に伴う人手不足、労働力不足を補う期待もあって近年、AI(人工知能)は最もホットなトピックの一つ。囲碁や将棋で高段者とわたり合い、小説まで書けるようになったという。かつてはSF物語の空想だったものの一部が既に現実化しており期待はますます高まっている。

 官民共同のAIプロジェクト「ロボットは東大に入れるか(東ロボ)」のプロジェクトリーダー、新井紀子さんの近著『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社)によると、人間の仕事の多くをAIが代替するような社会が間もなく到来するという。著者は将来、AIの労働力化で「教科書が読めない子どもたち」が行き場を失うような、経済のAI恐慌を懸念している。

「シンギュラリティ」はあり得ない

 著者が本書で表明している懸念とは別に世間では、AIと人間のかかわりでは、いわゆるロボットが自律的存在になるような「シンギュラリティ」の到来を不安視する声が高まっている。AIが人間の能力を超え、人間に反抗し、人間を支配するような事態で、こちらも、かつてのSF物語でしばしば用いられたセッティングだ。だが著者はそうした指摘をミスリードと切り捨て、AIの未来予想図がゆがめられていることに憂慮を表明している。

 「『AIが神になる?』――なりません。『AIが人類を滅ぼす?』――滅ぼしません。『シンギュラリティが到来する?』――到来しません」と、AIを危険視、有害視するような説に接するたびに突っ込みを入れているという。AIは数学の計算によりオペレーションが実行されている機械。「AIやAIを搭載したロボットが人間の仕事をすべて肩代わりするという未来はやってきません。それは数学者なら誰にでもわかるはずのこと」なのだ。

 「AIはコンピューターであり、コンピューターは計算機であり、計算機が計算しかできない。それを知っていれば、ロボットが人間の仕事をすべて引き受けてくれたり、人工知能が意思を持ち、自己生存のために人類を攻撃したりするといった考えが、妄想に過ぎないことは明らかです」

東大はムリだけど...

 著者は、2011年から16年にかけて国立情報学研究所が中心となって行われた「東ロボ」と呼ばれた「ロボットは東大に入れるか」というプロジェクトのリーダーを務めた。その名前は象徴的なもので、目的は、AIを東大入試に合格させるためではなく、AIにできることとできないことの見極めだったという。プロジェクトのスタートの時点で、文章の意味を読み取るようなことは数学的に処理できないことなどから、メンバーの間では東大合格の実現性は低いとみられていた。

 AIの東ロボくんはそれでも、13年に5教科7科目のセンター模擬試験で偏差値「45」だったものが、16年には「57.1」にまで伸張。一部の国公立大学、MARCH(明治、青学、立教、中央、法政)や関西の関関同立(関西、関西学院、同志社、立命館)などのレベルにある大学の学科によって合格率80%となるような力を示すようになった。

 情報の処理について計算という限定方法しか持たないAIだが、プログラミングによって人間と同等レベルになることが分かった。同プロジェクトと並行して、人間の処理能力の調査も行っていたが、それと東ロボくんの結果と並べてみて著者は懸念を深めることになる。

 東ロボくんプロジェクト始動と前後して行われたのは「大学生数学基本調査」。AIには難しいとされる「意味が分かってかんがえる」ことや「問題解決」について、どの程度できるかを調べたものだが、対象の学生の3割が「平均」の意味を理解しておらず著者らを失望させる。15年から17年まで期間には、東ロボのプロジェクトなどを通して開発された基本的読解力を測定するためのリーディングスキルテスト(RST)で約2万5000人を調査。対象は全国の小中高校生や大学生、社会人だが「中学を卒業する段階で、約3割が(内容理解を伴わない)表層的な読解もできない」という惨状が示される。

 「現代日本の労働力の質は、実力をつけてきたAIの労働力の質にとても似ています。それは何を意味しているでしょうか」と著者は問いかける。将来に向けて、いまは人手により行われている仕事はAIにより代替えが進んでいくだろう。だが、代替えされた人材は、AIで代替えがきかない労働市場に供給されることにはならず失業者があふれる事態も考えられる。本書を通読すると、われわれはAIにプログラミングできない読解力をさらに重視する必要を実感する。

  • 書名 AI vs. 教科書が読めない子どもたち
  • 監修・編集・著者名新井紀子 著
  • 出版社名東洋経済新報社
  • 出版年月日2018年2月 2日
  • 定価本体1500円+税
  • 判型・ページ数B6判・287ページ
  • ISBN9784492762394
 

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