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職場で「カスハラ」を受けていませんか?

住宅・建築業界における労務トラブル・カスタマーハラスメント対応マニュアル

 ハラスメントという言葉が市民権を得て久しい。セクハラ、パワハラ、マタハラ。本書『住宅・建築業界における労務トラブル・カスタマーハラスメント対応マニュアル――働き方改革のポイントと具体的事例の解説』(日本加除出版)には、さらに最近の新しいハラスメントが出てくる。「カスタマーハラスメント=カスハラ」だ。

顧客等からの著しい迷惑行為

 厚労省が長いタイトルの「指針」を公表している。「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)。令和2年6月1日適用だ。

 全体として、職場内におけるパワハラに関するもの。最後のところで「カスタマーハラスメント」に関わるくだりがある。用語として、「カスハラ」を使っているわけではないが、「事業主が他の事業主の雇用する労働者等からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為に関し行うことが望ましい取組の内容」ということについての説明がある。

 顧客等からの著しい迷惑行為(暴行、脅迫、ひどい暴言、著しく不当な要求等)により、雇用する労働者が就業環境を害されることのないよう、雇用管理上の配慮として、(1)相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備(2)被害者への配慮のための取組みを行うことが望ましいとしている。また、(3)被害を防止するための取組みを行うことも有効としている。

 本書はこの部分を「カスハラ」についての指針と受け止めている。今後、使用者としては、より一層、カスハラを意識し、カスハラから従業員を守る体制整備を行う必要が生じること、それができていなくて、従業員がカスハラでメンタル不調に陥った場合などでは、使用者側は、従業員に対して、安全配慮義務違反の責任を負うことになる、としている。

業務上疾病になる

 「カスハラ」は「クレーム」の一種。主として取引相手や顧客からの執拗なクレームだ。

 「指針」は役所の文章なので、ややわかりにくい。本書は、もう少しかみ砕いて、おおむね以下のように解説している。

 顧客クレームには、誠意をもって対処すべきものと、要請・要求に合理的な根拠がなく、過大・過剰な悪質クレームがある。

 その峻別方法として、例えば、クレームの内容が法令または社会通念上不相当な金員または行為(補修工事等)の要求だった場合や、応対した従業員の退職・解雇や謝罪広告の掲載など法的に認められない要求であった場合は「カスハラ」に該当すると見る。クレームに暴行や脅迫が伴う場合や、クレームが1時間以上の長時間にわたる場合、担当者の人格否定、同じクレームを3回以上行う場合なども相当するとしている。

 担当者がこうした「カスハラ」が原因で心身の不調をきたした場合は、業務上疾病ということになり、労災保険上の手続きも必要になる。

 どの職業でもクレーム対応は付きまとうが、本書が対象としている住宅・建築業界は、請負・受注仕事が軸で、かつ金額も大きい。工事ではちょっとしたミスやトラブルも起きやすい。いわば、「カスハラ」が不断に起こりうる業態のようだ。おそらく法令や社会通念上での判断がグレーゾーンのケースも少なくないだろう。こうした民事のトラブルには、警察は距離を置くし、場合によっては暴力団関係者も介在するので厄介だ。「カスハラ」の相手は代金の支払いを拒む人が多いらしい。したがって担当者は、自社の上司からも責められかねない。

企業成長につなげる

 本書は、住宅・建築・土木・設計・不動産業界の訴訟や交渉業務に関して経験豊富な匠総合法律事務所と秋野卓生弁護士の共著。

 第1章 ホワイト工務店化を果たすための視点
 第2章 従業員採用時・採用直後の法律相談
 第3章 不良社員対応に関する法律相談
 第4章 未払残業代・固定残業代等残業に関する法律相談
 第5章 悪質クレーム(カスタマーハラスメント)対応等に関する法律相談・・・

 さらに続いて、全部で17章に分かれている。新しいところでは、第15章で、外国人労働者に関する法改正動向についても言及している。「建設分野における技能実習生の受入れ基準の見直しに関する告示の解釈」「外国人研修生をトレーラーハウスに居住させる場合の労働基準法上の規制について」などだ。

 全体で102問の具体的な質問をもとに、詳しく解説している。「業務上のミスにより顧客クレームが発生し、精神的に不安定となっている従業員に対し、メンタルヘルスケア専門の病院に受診命令をすることができるか」「顧客の補助金申請を怠ったことで生じた補助金相当額の損害を従業員に損害賠償請求できるか」「顧客クレームを抱えた従業員が退職する際の引継ぎを円滑に進める方法」など、「カスハラ」関連のほか、「不正行為に及んだ社員が退職願を提出した場合における懲戒解雇の可否」「社内上で検査済証が下りたかのように偽装する等の企業内犯罪を行った従業員に対する懲戒解雇の可否」など多彩だ。

 住宅・建築業界には元請け、下請けなどの構造があり、景気変動の波を受けやすい。中小の会社は不断に倒産などのリスクもある。従業員の契約形態も雑多で、派遣、高齢者、外国人も多く、出入りが激しい。労災も起きる。何かと苦労が多い。

 本書は今後の業界の進む方向として、「従業員を大切にし、パートなどの非正規労働者にも温かい待遇で応じ、同一労働・同一賃金など当たり前の企業文化を構築し『Employee Satisfaction』を実践することによる企業成長につなげる取組みを推し進めていくべき」としている。

 BOOKウォッチでは不動産・住宅関連で、『やってはいけない不動産投資』 (朝日新書)、『負動産時代』(朝日新書)、『宅地崩壊』(NHK出版新書)、『限界のタワーマンション』 (集英社新書)、『「晴海フラッグ」は買いか?』(朝日新聞出版)、『クソ物件オブザイヤー』(KKベストセラーズ)など。法律書関連で、『「在日」の相続法 その理論と実務』(日本加除出版)、『無断離婚対応マニュアル――外国人支援のための実務と課題』(日本加除出版)、『詳解 相続法』(弘文堂)、『テレワーク導入の法的アプローチ』(経団連出版)など。ハラスメント関連で、『パワハラ・セクハラ・マタハラ相談はこうして話を聴く』(経団連出版)、『介護ヘルパーはデリヘルじゃない』(幻冬舎新書)なども紹介している。



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  • 書名 住宅・建築業界における労務トラブル・カスタマーハラスメント対応マニュアル
  • サブタイトル働き方改革のポイントと具体的事例の解説
  • 監修・編集・著者名匠総合法律事務所 著、秋野卓生 編集代表
  • 出版社名日本加除出版
  • 出版年月日2020年6月 5日
  • 定価本体4500円+税
  • 判型・ページ数四六判・464ページ
  • ISBN9784817846426
 

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