買えば儲かる。日本には「不動産神話」があった。それがもろくも崩れたのが「バブル」だ。おおむね1991~93年ごろからのことだ。平成は「バブル崩壊」で始まったといわれる。
その後の不動産市況は長く低迷が続いた。このところ、アベノミクスの金融緩和や相続税対策、中国人のタワマン購入などで、ようやく上向ききになったといわれる。しかし、実需にもとづいたものではないようだ。はたして、「令和」の不動産はどうなるのか。
それを占う意味で参考になりそうなのが、本書『負動産時代』(朝日新書)だ。2017年8月から朝日新聞紙上で連載し、反響があった企画をもとに単行本にしている。副題に「マイナス価格となる家と土地」とある。要するに不動産に「負」の要素がふくらんでいるということだ。アベノミクスで好調さを取戻したかのように見える不動産市況を「光」とすれば、その一方でじわじわ広がる不動産を巡る「影」の姿を抉り出している。本書を読むと、実際のところ「令和」の時代の不動産は要注意だということが良くわかる。
「第1章 捨てられる家と土地」「第2章 リゾートマンションの黙示録」「第3章 サブリースの罠」「第4章 高すぎる固定資産税、相続税」「第5章 負動産は生き返るか――海外の事例から」「第6章 国の怠慢、ツケを払う国民」に分けて詳述している。
地方や都市の一部で廃屋が増えているという話は第1章、リゾートマンションのブームがとっくに去ったというのは第2章、アパート購入に手を出して大変な目にあったという話は第3章・・・という具合に近年、あちこちで取り上げられている話が登場する。
本書ではいくつかの注目すべきデータが掲載されている。日本の住宅総数はすでに総世帯数を超えている、2013年に14%だった空き家率は33年には30%になると推計されている、所有者不明とされている土地が増え続け、16年時点で九州より広い約410万ヘクタール、40年には北海道の面積に迫る720万ヘクタールになりそうなこと、17年度の調査で「土地は預貯金や株に比べて有利な資産だと思う」という人は約20年前から半減し30.2%になっていることなどだ。
空き家や所有者不明の不動産が増えているのは、元の所有者が亡くなり、相続がうまく行われていないことが大きい。相続人が多数になっていたり、税金や管理費の負担が大きかったりする。もともとの所有者に借金がある場合は、それも引き継ぐことになるから、価値の乏しい不動産ほど敬遠される。
本書は特にマンションに潜むリスクを強調している。分譲マンションは17年現在、全国で約644万戸。そのうち築40年超は73万戸。これが27年には185万戸になるというのだ。建て替えには全住民の5分の4以上、建物を取り壊して、土地を売るには原則全員の同意が必要だということが対策のネックになっている。
大規模修繕でリニューアルすればいいと思われるかもしれない。しかし、本書は、修繕積立金を低く設定しているマンションが少なくないことを指摘する。そうなると、本格的な修繕工事の時にお金が足りなくなり、追加支出を求められることになる。老朽化しているマンションは、高齢者が住んでいることが多いから、すんなりとはいかない。
こうして、立ち腐れのようになったマンションがすでに全国のあちこちで出始めている。真っ暗なマンションやアパートで、一部屋だけ電気が灯っている家を訪ねるなど、本書はきれいごとでは済まない取材を繰り返し、「負動産」の実態に迫っている。特にワンルームマンションの末路は悲惨なようだ。
巻末には取材班6記者の名前と経歴が掲載されている。それを眺めていて、あることに気づいた。6人のうち5人が他社を経由して朝日新聞に入っているのだ。日本農業新聞、信濃毎日新聞、NHK、番組制作会社、読売新聞。そういえば本欄で紹介した『日銀と政治』(朝日新聞出版)、『日本銀行「失敗の本質」』(小学館新書)、『なぜ「官僚」は腐敗するのか』(潮出版社)の著者はいずれも朝日の現役もしくは元記者だが、経歴を見ると、3人とも日経新聞を経由している。
本書関連で本欄では『マンションは日本人を幸せにするか』(集英社新書)、『限界都市』(日経プレミアシリーズ新書)、『プライベートバンカー 驚異の資産運用砲』(講談社現代新書)なども紹介している。
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