マンションに関する本は山のようにある。本書『マンションは日本人を幸せにするか』(集英社新書)の特徴は、日本のマンションの過去・現在・未来を包む風景を、文明論的に見ていることだ。それがタイトルの「幸せにするか」につながっている。
著者の榊淳司さんは1962年生まれ。長年、マンション業界で働き、住宅ジャーナリストに転身している。業界の裏事情も知りつつ、購入者の立場で住宅問題を考えようとする。
日本のマンションは、「団地」も含めると、分譲タイプが600数十万戸、賃貸が約1300万戸、合わせて2000万戸近くもあるという。60年前に鉄筋コンクリートの集合住宅で暮らしていた人は、わずかしかいなかったことを考えると、驚くほどの拡大ぶりだ。
かつて日本人は木造の家に住んでいた。高温多湿。さらに地震国ということもあり、石造りの家は避けられていた。したがって、欧米のようにコンクリートで囲まれた住居に住むという経験は戦後になってからだ。
そのあたりの事情は、次の数字にも象徴的に表れている。「日本30、アメリカ55、イギリス77」。これは「減失住宅の平均築後年数」という指標で、国土交通省の推計値だ。取り壊される住宅が建築から何年たっていたか。日本は30年なのに対し、イギリスは77年。
日本の場合は木造住宅が主だから短いのだろう。しかし「寿命の短い家」に住みなれているのが日本人だ。したがって、マンションについても、築30年というと相当古い感じがしてしまうことは否定できない。そしてこれから、古いマンションの建て替え期が押し寄せてくる。日本人が初めて経験することだ。
ビルの建て替えはあちこちで見かけるが、マンションの建て替えはあまり目にしない。築40年以上のマンションで建て替えが検討されているものはまだ2%程度しかないという。なぜか。最大のネックは建て替えの建設コストだ。広さにもよるが一戸当たり2200万円ほどかかる。高齢者が多い老朽マンションでは、大きな負担になる。そして、もうひとつは法制面の規制。建て替えには区分所有者の5分の4の賛成が必要なのだ。マンションの管理組合にとって非常に高いハードルだ。
ではどうなるのか。著者は「看取るしかない」と悲観的だ。もちろん例外はある。それは人気エリアにあり、敷地の容積率が大幅に余っているケース。住民が管理費をきちんと納め、管理組合が機能していることも条件だ。
朝日新聞の2018年7月5日の東京版によると、超高層マンションの人気は続いており、都内では今年以降で137棟が計画されているそうだ。購入層は「パワーカップル」。夫婦ともども高収入層がターゲットらしい。
加えて近年、あちこちで指摘されているのは中国人の大量買い。今や「米中」が世界の二大大国になっており、中国人の金持ちは多いが、自国では不動産の所有が難しい。だから日本の良質物件に対する「買い」が続く。ある超高層マンションの管理組合の総会では、「購入者は中国人が多いのだから議事進行は中国語で」という発言まであったという。
本書では、中国人との「共生」はもはや避けられないとみている。対応策としては、トラブル防止のため、最初から管理組合の規定を細かく定めるか、国際化の流れの一つとして文化的に包容するしかないとする。マンションが迎える新時代。これから都心部で購入する人は、買う前から心の準備が必要なようだ。それがマンションという住まいを、新しい文明の形として受け入れることにつながる。
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