「関東連合」「半グレ」ということばをワイドショーなどでよく聞くようになったのは、2010年11月の市川海老蔵さん暴行事件以降だろう。その翌年には六本木クラブ襲撃事件が起き、まったく無関係の人が金属バットで殴打され死亡、その凶暴さが衝撃を与えた。
元暴走族のOBらが複雑にからみあう「関東連合」の実態は闇につつまれていたが、元最高幹部の一人、柴田大輔氏がペンネームの工藤明男名義で書いた『いびつな絆 関東連合の真実』『破戒 関東連合少年編』(いずれも宝島社)によって、その姿が少しずつ明らかになった。本書『聖域』(宝島社)は柴田氏が3部作の完結編として、関東連合がどのように経済活動にかかわり、歓楽街で成り上がっていったかを記録したものである。文句なしに面白い。
「関東連合」そのものは、昭和50年代生まれの東京都世田谷区、杉並区エリアの暴走族の集団だ。ほかの不良集団や暴走族と違うのは、彼らが「関東連合系企業」をそれぞれつくり、芸能プロダクション、闇金融、ITの分野で経済ビジネスを展開したことだ。それによって、芸能界や経済界にも接点をもち、社会に少なからず影響を与えた。
実名での引用は控えるが、多くの芸能関係者、経済人の名前が登場する。柴田氏自身も少年院を出た後、AVプロの社長、芸能界重鎮のボディガードなどを経て、芸能プロダクションを設立。インターネットやモバイルの普及に合わせた広告事業がヒットし、IT広告ビジネスへ舵を切る。一時は連結売上40億円、従業員数80人と成功した。しかし、柴田氏はほかの元関東連合のメンバーに、どんな仕事をしているか教えなかったという。彼らが参入すればトラブルになるからだ。
その後、六本木クラブ襲撃事件の主犯として指名手配され、海外逃亡している最高幹部Mとの確執や関東連合の実質的な消滅をふまえ、現在執筆活動を続けている。あとがきに「僕はもはや関東連合が嫌いだ。1人では喧嘩もできない関東連合。人数を集めなければ喧嘩ひとつできない関東連合。都合がいい時は稼業の名前を使い、都合が悪ければカタギを演じる」と書く。
通読して感じたのは、地元意識や先輩後輩を気にする意識の強さだ。元暴走族だからと言ってしまえばそれまでだが、「仲間内の論理」を強調するのは、この世代以降に共通するものだろうか。東京・城南地区のある程度裕福な家庭に育ったメンバーが多かったので、既存のアウトロー(稼業=ヤクザ)と接点をもちつつも、呑み込まれることはなかった。さらに六本木という繁華街に浸透し、AV、芸能界の女性への影響力を行使し、エスタブリッシュメントへも食い込んだ。かつて日本に存在しなかった「反社会的勢力」だった。その虚像は本書などを通じてバレてしまったが、いまだに吹聴するやからもいるそうだから注意したい。
著者のかつての行動によって被害を受けた人も多いようだが、著者は反省しわびている。闇につつまれていた「関東連合」を白日のもとにさらしたため、暴対法における保護措置により保護対象となっている。いわば命がけで書いた本だ。
本書は16年に刊行された同名の単行本を改訂し、文庫化したものである。
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