読むべき本、見逃していない?

「黒田日銀」をめぐる異様な言論空間

  • 書名 日本銀行「失敗の本質」
  • 監修・編集・著者名原真人 著
  • 出版社名小学館
  • 出版年月日2019年4月 8日
  • 定価本体840円+税
  • 判型・ページ数新書判・253ページ
  • ISBN9784098253432

 2019年に入って浮上した厚生労働省の「毎月勤労統計」の不正問題は、にわかに「アベノミクス」は本当に成果を上げたのかという大きな疑問を広げた。アベノミクスに限らず、安倍政権をめぐる政策や政治手法については、主要メディアの評価や論調が正反対になることは珍しくない。それを議論の活性化と見るか、メディアの分断と見るか、立場によって異なるが、そうした現象自体をメディア自体が報じることも少なくない。最近の「菅官房長官vs望月衣塑子記者」問題はその典型だろう。

 だが、あまり報じられていないが、日本銀行という日本の金融政策の司令塔をめぐる言論空間でも、同じように異様な事態が進んできたらしい。

 安倍晋三首相のもとで展開される経済政策「アベノミクス」を金融面で支えてきたのが黒田東彦総裁率いる日本銀行である。異次元の金融緩和やマイナス金利など、これまでの常識では考えられない手を尽くして、デフレ脱却を目指した「黒田日銀」の6年の軌跡を、朝日新聞の現役編集委員が批判を込めてつづった本『日本銀行「失敗の本質」』(小学館新書)が出た。

 書名にもある通り、太平洋戦争が日本の国土を焦土と化し、「無条件降伏」による敗戦に終わったという失敗の原因を、日本軍の組織論、行動論からまとめた研究書『失敗の本質』に範をとり、黒田日銀の船出から時系列の動きと日銀の組織論をもとに丹念にまとめたものである。当然、その先に危惧されるのは「第2の敗戦」である(その意味することは本書を参照されたい)。

 その検証もさることながら、本書に記録された内容で驚くのは、黒田日銀やアベノミクスを批判する言論に対する執拗な「攻撃」であり、「嫌がらせ」だ。

日銀批判への攻撃

 著者自身、アベノミクスや異次元緩和を「危うい政策」として批判的な記事を書いてきたが、そのたびに寄せられるネットや電話による「攻撃」は「批判的な意見」という範疇を超えている。「プロローグ」の中でも、有力者から「危険人物」「天敵」と直接言われたことがあると告白している。取材相手も同様で、アベノミクスや黒田日銀に批判的な学者やエコノミストの多くが、ネットによる攻撃の洪水を恐れて口をつぐんだという。

 著者が黒田総裁と対峙する記者会見の場面も何度か出てくる。詳細は控えるが、「官房長官vs望月記者」との相似形が見えてくる。金融という専門的な領域の故か、こうした実態を報じるメディアは極めて少数だ。

 太平洋戦争の敗戦は、日本軍の「大本営発表」による事実の隠蔽やねつ造が、国民に敗戦の可能性を見えなくさせ、政府部内も含めて批判を許さなかった結果でもある。それに加担したメディアに大きな責任があった。それになぞらえれば、金融政策をめぐる現在の異様な言論空間の持つ意味は、きわめて重大である。

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