シングルマザー、母子家庭についての本は多い。BOOKウォッチでも数多く紹介している。しかし、父子家庭の本は珍しい。本書『君たちにサンタは来ない』(ヨシモトブックス発行、ワニブックス 発売)は、一人で男児2人を育てた男性の13年間の実話にもとづく壮絶なライフヒストリーである。
著者の朝田寅介さんは、1974年茨城県生まれ。2016年、10年間にわたる子育て経験を綴った手記を人生投稿サイト「STORY.JP」で発表。大きな反響を呼び、第3回カタリエ特別賞を受賞。同作品を加筆・修正し書籍化したのが本書だ。
朝田さんは平成17年冬、突然父子家庭になった。高校を卒業後、調理師をしていたが、結婚して子供が生まれたのを機会に辞め、夫婦で商品を海外から仕入れインターネットで売る商売を始めた。
仕事場としてワンルームマンションを借り、妻に管理を任せていたが、ある日もぬけの殻となり、妻は姿を消した。離婚調停後、小学2年と幼稚園児の男児二人を朝田さんが引き取ることになった。
当時住んでいた水戸市の児童福祉課を訪ね、父子家庭への支援について質問すると、思いもよらない回答だった。
「父子家庭に支援はないんです」 「そういった法律がないんですよ」 「国はね、男が、父親が子供を引き取って育てるということを、そもそも想定していないんですよ。子供は母親が引き取って育てるもので、父親が引き取って育てるものではありませんから」 「男なんだから、働けるでしょ。どこかに子供を預けて働いたらいいんじゃないですか」
市役所からの帰りの電車の中で、朝田さんは声を上げて泣いた。全財産は2万円しかなかった。クリスマスにサンタはやって来なかった。
幼児がいると、フルタイムでは働きにくい事情がよくわかった。朝食を食べさせ、幼稚園へ下の子を送って行く。それから洗濯や掃除をすると昼になる。買い物に行き、幼稚園に迎えに行くと家に戻り、14時になる。「仕事など、できる状況ではない」
隣町の実家に戻り、両親の介護をし、二人を看取る。
「その後の数年間は、親が残してくれたいくばくかの遺産と、実家に残されていた無数のガラクタをオークションにかけて稼いだ日銭で、なんとか暮らしていくことができた」
下の子が小学校に入り、朝田さんは働くことにした。正社員は無理なので、パート、アルバイトで探したのが、ショッピングモールのフードコートの調理のアルバイト。時給800円、労働時間は11時から16時まで、週4日で月8万円だった。
少しずつ、仕事と家事の両立に慣れた頃、東日本大震災が起きて、被災する。仕事場は廃墟になり、仕事を失う。
この後は、転職の繰り返しだ。うどん店、駅ビルの飲食店、ハンバーガーショップ。1年で3回仕事を失い、生活は困窮する。地上デジタル放送になり、テレビも見られなくなった。電気は二度止められ、水道も一度止められた。
生活を軌道に乗せるために、職を失うリスクの少ない正社員として働くことを決意、日帰り温泉施設の和食の板前の職を得る。しかし、長時間の仕事を続けるうちにうつ病になる。そして介護施設の厨房へ再就職。仕事の辛さについて書いているうちは、まだ良かったかもしれない。子どもたちが成長するにつれ、子育ての問題が頻繁に起こる。孤独の中で、ブログへの書き込みがストレスの発散になった。
なんとか高校に入った長男は遊び回るようになる。18歳の誕生日が過ぎ、父子家庭の生活がはじまって10年の節目を迎えた頃、長男がバイク事故を起こし、ヘリで救急搬送される。
生死の境をさまよう長男、心配する朝田さんに警察官が無免許だったことを告げる。
「あの、父子家庭でして、ずっと十年間一人で子供を育ててきて、最近下の子の親権変更の調停とかあって、時間も余裕もお金もなくて、上の子の生活に関して手が回らな......」
親失格だと思い、「神様」と言葉にしたが、何を祈れば良いのかさえわからなかった。
長男はなんとか助かり、その後成人した。こんなLINEをくれた。
「今まで育ててくれて本当にありがとうございました。二十歳を迎えることができました」
ほんの少しだけ報われた気がして、満足した、と結んでいる。
「父子家庭としての偽らざる記録を子供たちに伝える同時に、この生き方を世に問いたい」としている。公的な支援がない分、母子家庭よりも厳しい父子家庭の実態が見えてくる。
BOOKウォッチでは、児童福祉施設のルポ『漂流児童』(潮出版社)を紹介。同書の著者が、父子家庭の「消えた同級生」への思いを綴っている。
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