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コロナ禍で途中下車する人が減った訳

旅は途中下車から

 長距離の乗車券やフリーきっぷの利点のひとつは、途中下車ができること。気分次第で駅に降り、それから何をやるかを決めるのも、ちょっと贅沢な旅の一つ。本書『旅は途中下車から』(交通新聞社新書)は、きっぷのルールに明るい著者が、実践例も盛り込みながら広く途中下車の旅を紹介した本だ。"時と場所の自由旅"のマニュアルで、日常の通勤も小旅行に変わる。

 著者の土屋武之さんは、1965年大阪府生まれ。大阪大学文学部卒。『ぴあ』編集部などを経て、1997年よりフリーのライター。著書に、『ツウになる!鉄道の教本』(秀和システム)、『JR私鉄全線 地図でよくわかる 鉄道大百科』(共著・JTBパブリッシング)、『まるまる大阪環状線めぐり』(共著・交通新聞社)、『きっぷのルール ハンドブック 増補改訂版』(実業之日本社)などがある。

「途中下車」は日本独自の制度

 初めて知ったが、長距離旅行における「途中下車」は、ほぼ日本独自の制度だという。欧米ではプラットホームまで出入り自由なのが普通だが、長距離列車の乗車券は飛行機やバスと同じような「乗り切り」の場合が多い。

 つまり、「1本の列車に対して1枚の乗車券が必要で、いったん降りる場合は、その駅で分けて乗車券を買わなければならない。フリーパスの類いを使わない限り、列車に乗る前に下車する駅を決めておかなければならないのだ」。

 アジアにおいても、中国や台湾、韓国では同じ。途中下車の考え方自体がないそうだ。途中下車のメリットを土屋さんはこう挙げている。

 「最終目的地まで乗車券を通しで買うと、安くなる上に、途中で用件をこなせる。さらには降りて遊べる。旅行好きでなくても楽しい仕組みなのだ」

JRは101キロ以上なら途中下車可能

 いろいろ細かいルールがあるが、JRの場合、基本的には営業キロ100キロまでの乗車券では途中下車できない。一方で101キロ以上の乗車券では、他のルールが適用されない限り、後戻りしなければ自由に途中下車できる。

「近郊区間」に注意

 ただし、「大都市近郊区間内相互発着」の乗車券では途中下車できないから、注意が必要だ。東京、仙台、新潟、大阪、福岡の5エリアには「近郊区間」が設けられている。出発駅も到着駅もこの近郊区間に含まれ、かつ近郊区間を出ずに乗車する場合、その乗車券では途中下車できない。

 東京近郊区間は南は静岡県の伊東、神奈川県の久里浜、西は長野県の松本、北は群馬県の水上、栃木県の黒磯、福島県の浪江、東は千葉県の銚子、房総半島一円......と異様に馬鹿っ広い。Suica利用区間とほぼ重なる。

 たとえば、いわきから松本まで旅行する場合、営業キロが最短距離計算で446.9キロもあり、乗車券は7480円だが、途中下車はできない。有効期間も1日だけだ。

 もし、新宿で途中下車するならば、いわき→新宿(3740円)、新宿→松本(4070円)と分けて買えばいい。合計7810円かかり、通しで買うより330円高くなる。

新幹線利用の「裏ワザ」

 このルールに引っかからない「裏ワザ」もいろいろ紹介している。たとえば房総半島を一周する驚きのルートはこうだ。出発地は土屋さんの自宅がある武蔵溝ノ口となっている。

 武蔵溝ノ口→(南武線)→立川→(青梅線)→拝島→(八高線)→高麗川→(川越線)→大宮→(東北新幹線)→東京→(京葉線)→蘇我→(外房線)→安房鴨川→(内房線)→浜野(ルール上は蘇我まで買うことができるが、窓口での説明が面倒なため、蘇我のひと駅手前までにした)

 このルートはすべて「東京近郊区間」に含まれていそうで、途中下車できないように思われる。しかし、大宮→東京を東北新幹線経由に指定するのがミソだ。東北・上越新幹線の大宮~東京間は近郊区間に含まれない例外ルールがあるのだ。並行する東北線(宇都宮線)との「選択乗車」が可能なので、実際に新幹線に乗らなくても大丈夫だそうだ。

 運賃は最短距離での計算(武蔵溝ノ口→浜野間1170円)にはならず、乗車ルート通りの計算(6050円)となるが、有効期間3日間で堂々と途中下車できる。この旅行記も詳しく書いている。

 新幹線区間を含む「裏ワザ」の対象となる区間は以下の通りだ。覚えておくと役に立つかもしれない。

 【東京近郊区間】東海道新幹線の東京~熱海間、東北新幹線の東京~那須塩原間、上越新幹線の東京~高崎間
 【大阪近郊区間】山陽新幹線の新大阪~西明石間
 【福岡近郊区間】山陽新幹線の小倉~博多間
 【仙台近郊区間】東北新幹線の郡山~一ノ関間
 【新潟近郊区間】上越新幹線の長岡~新潟間

定期券使って日常的に途中下車

 こうしたルールだけの解説に止まらない。「第2章 途中下車駅の楽しみ方」では、駅の中のグルメ(越後湯沢駅=新潟県、銚子電鉄・犬吠駅=千葉県、高松琴平電気鉄道・高松築港駅=香川県など)、駅の中の温泉(阿仁前田駅=秋田県、女川駅=宮城県、那智駅=和歌山県など)の楽しみ方を紹介している。

 また、第3章では、定期券を利用した日常での途中下車、第4章では途中下車技の応用として、フリー切符の活用法を伝授している。

 私事で恐縮だが、評者はコロナ禍の前、定期券を使っていた頃は、通勤ルート上の東京駅、御茶ノ水駅、飯田橋駅でひんぱんに途中下車し、用事を済ませたり、飲食をしたりしていた。しかし、在宅勤務が増えて定期券を使わなくなり、よほどの用事がない限り、途中駅で下車しないようになった。特に、小腹がすいた時にラーメンを食べるためによく途中下車していたが、その習慣がなくなった。コロナ禍でラーメン店の倒産が増えていると聞いた。評者のように途中下車する人が減ったことも少しは影響しているのではないだろうか。

 反面、駅ナカのショップや飲食店を利用することが増えた。東京駅はちょうど駅ナカを大幅に拡充したばかり。有名店にはいつも長い行列ができている。

 BOOKウォッチでは、関連で『シニア鉄道旅のすすめ』(平凡社新書)、『昭和四十一年日本一周最果て鉄道旅』(笠間書院)、『旅鉄HOW TO 007 60歳からの青春18きっぷ入門』、『旅鉄BOOKS 026 駅弁大百科』(いずれも天夢人)などを紹介済みだ。

  • 書名 旅は途中下車から
  • サブタイトル降りる駅は今日決まる、今変える
  • 監修・編集・著者名土屋武之 著
  • 出版社名交通新聞社
  • 出版年月日2020年10月15日
  • 定価本体900円+税
  • 判型・ページ数新書判・239ページ
  • ISBN9784330079202
 

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