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鉄道全盛期に日本一周した若者たちの記録

昭和四十一年日本一周最果て鉄道旅

 宮脇俊三さんの『時刻表2万キロ』など、鉄道旅をテーマにした本は根強い人気がある。本書『昭和四十一年日本一周最果て鉄道旅』(笠間書院)は、まだ地方の私鉄や国鉄のローカル線が走っていた時代の記録という点で貴重だ。また著者の小川功さん(滋賀大学名誉教授)は、鉄道史学会に所属する学者であり、単なる旅行記に終わらない内容になっているのが類書にない特徴だ。

17日間でほぼ日本一周

 著者の小川さんは1945年生まれ。66(昭和41)年の旅行当時、神戸大学経営学部の学生。中学・高校の同級生で当時、早稲田大学政経学部の学生だった犬塚京一さんと二人で北は北海道・稚内から南は鹿児島県・枕崎までを、17日間でほぼ日本一周をした。

 「第一部 昭和最果て巡礼記」「第二部 巡礼から五〇年。最果ての鉄路は今......」「第三部 巡礼不参加仲間の懺悔録」の三部構成。

 第一部は当時の日記などをもとに小川さんができるだけ忠実に再現した。当時書かれたものならば、「学生の旅行記」と相手にされなかっただろうが、半世紀を経て、その後の人生体験や鉄道・交通の専門家としての学識を加え、いい具合に「発酵」している。

2762円で稚内から枕崎まで行けた

 神戸の三ノ宮駅で発行された切符は、3枚に分かれ、裏にびっしりと通過する路線名が書かれている。2枚目の稚内から枕崎までは学割で2762円。昭和41年まで学割は5割引きだった(その後2割引きに)。それにしても安かったことに驚く。使用後、事情を話すと印をつけて回収を免れることもあった。手元に残り、裏表紙を飾っているのは、そうした当局の配慮のおかげだろう。

 旅の記録は3月2日、東京・上野駅から北へと始まる。寝台急行列車「第二津軽」で青森へ向かう。翌朝、秋田県の湯沢駅では羽後交通雄勝線のポール電車を撮影する。これに限らず、本書には廃止された鉄道が数多く登場する。羽後交通横荘線(横手駅)、秋田中央交通線(八郎潟駅)、北海道拓殖鉄道(新得駅)、雄別鉄道(釧路駅)......。廃線は数えきれない。

 3月7日に稚内から反転し、南へ向かう。青森からは日本海岸を大阪めざして南下する。新潟で異変が起こる。犬塚さんの学生寮の寮長が亡くなったことを知り、犬塚さんは特急で上京することになった。当時は「列車電報」という制度があり、二人はその後の段取りを確認し合う。新潟から大阪へは一人旅となった。

 この後、一日遅れで再会し、西日本の旅が始まる。3月14日、南端の枕崎に到着する。帰りは四国を経て、起点の三ノ宮へ。小川さんの旅は終わった。道中、さまざまな風景に出会い、多くの路線に乗るが、ここでは紹介しきれない。

「ウサギとカメの二刀流」

 第二部の「解説」で、専門家らしい蘊蓄を披露している。鉄道を利用した回遊記録には、いわゆる「一筆書き」の「最長片道切符」、「早回り」、それらにこだわらない「連続切符」の3つの系譜があり、さまざまな先人の事例があることを紹介している。

 彼らの旅は、北海道内、九州内は「一筆書き」に近く、本州内は「早回り」に近い折衷タイプだったという。「ウサギとカメの二刀流」だったとも。

失われた駅前の風景

 また、北海道の炭鉱鉄道や各地の地方私鉄、国鉄ローカル線の廃止にも言及し、こう結論づけている。

 「戦前期には陸上交通機関の王者であった鉄道を中心とした雑多で活気ある駅前繁華街が生み出していた昭和の原風景が、五〇年間の東京一極集中による過疎・高齢化、農林地場産業・地方経済の衰退等を背景に、私鉄・国鉄の衰退・廃止、百貨店SC撤退、バス会社の衰微、商店街の空洞化等の複合的要因により消滅しかかっている。地方で辛うじて人が集まるスポットは幹線道路沿いの『道の駅』だけで、今や『駅前商店街』は死語となり、本家のはずの『鉄道の駅』は地元民からも忘れられ、もはや見る影もない廃墟一歩手前の危機に晒されている」

学生寮の友情

 ところで、「第三部 巡礼不参加仲間の懺悔録」では、犬塚さんが当時入っていた東京・目白の学生寮「和敬塾」の仲間5人が「不参加の弁」を語っている。村上春樹の代表作『ノルウェイの森』の舞台にもなった寮だ。60年近くも前のことを仲良く語り合う様子に、昭和の青春の面影が感じられた。旅行中も二人は各地で寮生や父母のお世話になっていた。寮を通じた友情が今も続いているのは驚きだ。

 BOOKウォッチでは、『漱石と鉄道』(朝日新聞出版)など鉄道関連書のほか、村上春樹と和敬塾については、『上京する文學』(ちくま文庫)で紹介している。

  


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  • 書名 昭和四十一年日本一周最果て鉄道旅
  • 監修・編集・著者名小川功 著
  • 出版社名笠間書院
  • 出版年月日2019年12月10日
  • 定価本体1600円+税
  • 判型・ページ数A5判・259ページ
  • ISBN9784305708984
 

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