「鉄道ブーム」になってからかれこれ10年ぐらいになろうか。追いかけるようにブームになった路線バスの旅や街歩きとの相乗効果や、鉄道各社のサービス向上もあり、ブームはなお拡大して、鉄道に興味がなかった「非鉄」系の人たちにも及んでいるようだ。
本書『シニア鉄道旅のすすめ』(平凡社新書)は、鉄道ファンの著者が、シニア向けはもちろん、数々ありながらあまり知られていない割引や、おトクなきっぷを紹介した一冊。シニア向けというより、より広く「非鉄」系の人たちに向け、リーズナブルで楽しい鉄道旅を提案する。
JR各社はシニア向けのサービスを提供しているが、なかでも利用者が多いとみられるのは、JR東日本の「大人の休日倶楽部パス」だろう。50歳以上限定の会員組織「大人の休日倶楽部」に入会して利用できるフリーきっぷ。年に3回ほどの利用期間があって、そのうちの4~5日間連続で、JR東日本全線、あるいは、JR東にプラスしてJR北海道全線で乗り放題ができる。
対象の期間は旅行のハイシーズン以外の閑散期だが、JR東乗り放題(4日間)の場合、1万5000円で特急列車や新幹線も利用でき、事前予約で6回まで座席指定券が取れる。東北新幹線「はやぶさ」(全車指定席)で東京―仙台間を利用すると、運賃と特急指定席券を合わせて往復2万2000円だから、ハンパないおトク感だ。「極端な話、3日間、東京と仙台を3往復しても構わないし、残り1日は「やまびこ」の自由席で往復しても(3日間で指定券6回を使い果たしたことになるので)1万5000円で済んでしまう」と著者。
本書によると、人口の高齢化に伴いおトク感が知れ渡り「大人の休日倶楽部」の会員が増加したことなどから、最近は、午前の早い時間に東京を出発する東北新幹線や秋田新幹線の列車の指定席が軒並み満席という。「格安なので、できるだけ遠くへ行きたいと考える人が多いせいか」と著者は推測。東北新幹線で「はやぶさ」が取れないときは「やまびこ」を利用して盛岡で乗り換えることなどを提案している。
「大人の休日倶楽部」は、2015年からJR北海道でも募集を開始。西日本や九州、四国のJR各社でもシニア向け割引きっぷが用意されており、なかには、とりあえず会員になって利用に備えることができるサービスもある。
だが、シニアだからといって、その枠にはまった旅をしているだけではつまらない。著者が推すのは「青春18きっぷ」の利用だ。もともとは、その名前の示すとおり、夏休みなどの長期休暇を利用して旅する18歳前後の若者を対象に企画されたようだが、利用にあたり「年齢制限はないので、シニアも堂々と使ってよいきっぷ」である。
このきっぷで自由に乗れるのは普通列車(快速を含む)だけ。5回分のきっぷが1枚にまとめられていて、ひとりで5回(1回は任意の1日の始発から終列車まで)使ってもよいし、5人グループでまる1日鉄道旅行することもオーケーだ。
若者向けの格安乗車券である「青春18きっぷ」利用の移動というと、節約ケチケチ旅行のイメージだが、これをベースにして、少々リッチな気分になれる旅を楽しもうというのが著者の提案。このきっぷの利用条件は「普通車自由席」なのだが、追加購入すれば「グリーン車自由席」と「普通車指定席」が利用可能。全国的に、とくに中距離列車ではロングシートの割合が増えセミクロスシートの車両が減少し「のんびり旅をする者にとっては受難の時代」であり、のんびり旅を取り戻そうというわけだ。
乗車前にグリーン券を購入すれば、例えば東京―熱海間、東京―高崎間はともに平日なら980円、土休日なら780円。
「熱海までのグリーン車は2階建てなので、席があいていれば2階の窓側を選択したい。できれば進行方向の左側ならば国府津あたりから相模湾の車窓を楽しめる。18きっぷとはいえ優雅な旅である」
また各地のローカル線を走っている人気の観光列車は、列車種別として快速列車扱いのものもあり、こちらも青春18きっぷがあれば「普通車指定席」の購入で利用可能だ。
東北地方を走る観光列車のなかで、青森、秋田両県の日本海沿いを走るJR五能線の快速列車「リゾートしらかみ」はとくに人気が高い。新青森駅から秋田駅間をこれに乗って旅すると4430円。青春18きっぷを利用すれば、指定料金520円を追加するだけで楽しめる。
本書ではまた「リゾートしらかみ」のほか、各地で人気の観光列車や、コース料理や、その土地の名産品を味わえるレストラン・カフェ列車を紹介。JR東日本の新幹線に備えられている豪華車両「グランクラス」や、近鉄のゴージャス観光特急「しまかぜ」などの乗車体験ルポが収められている。
著者は1952年生まれ。早大大学院を修了(国際法)してから、都立高校に勤務のかたわら、日本や欧州の鉄道旅行を中心とした著作を続けている。「かつては『鉄道が好き』などと公言するのも憚られたのに、堂々と『鉄道ファン』を自称する有名人も増え、世間では『鉄道趣味』がすっかり認知されたといってもいいだろう」という。シニアとなって「鉄道ファン」をカミングアウトできた喜びのようなものが本書の随所ににじむ。その内容は、シニアに限らず、鉄道での旅行に大いに参考になる一冊に仕上がっている。
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