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生誕250周年に振り返る、楽聖の生涯

ベートーベンの真実

 楽聖・ベートーベンは1770年、古都ボンで生を受けた。つまりことし、2020年は生誕250年のアニバーサリー・イヤーである。この1年のクラシック音楽業界は、町の公民館から国を代表する大ホールに至るまで、世界中がベートーベン一色に染まる予定であった―――。ところがコロナ禍である。軒並み中止となるコンサートに落胆しているところに、本書『ベートーベンの真実』(株式会社KADOKAWA)が発刊された。

悩める天才、とりまく女性たち、そしてナポレオン

 著者は大学卒業後にドイツに渡りフォルクスワーゲンに勤務した経験を持ち、近年はドイツを中心とした紀行文を執筆するなど、ドイツ文化に詳しい小説家、谷克二さん。人間・ベートーベンの生涯を、写真家、鷹野晃さんによる生地ボン、「遺書」で知られるハイリゲンシュタット、終焉の地ウィーンの写真とともになぞる一冊だ。

 本書の構成は以下の通り。

 はじめに ベートーベン、ボン、人々との交流
 第一章 ボンという町、ベートーベンの生い立ち、それを取り巻く人々
 第二章 ハイドンへの師事、二人の時代感覚の差
 第三章 難聴、そしてハイリゲンシュタットの遺書、不滅の恋人。その前後の時代
 第四章 パスカラッティ・ハウス、〈傑作の森〉、そしてベートーベンを囲む女性達、(1806~)
 第五章 ゲーテ、甥のカール
 第六章 スランプの時期から復活まで(1813~1824)
 第七章 交響曲第九番・合唱付き、及び人生の終幕
 第八章 最後の作品、四つの弦楽四重奏曲と『大フーガ』(1824~1827)

 ベートーベンと同名の祖父・ルートヴィヒは、ケルン大司教・選帝侯の宮廷音楽長を務める人物であった。父・ヨハンもボンで宮廷テノール歌手をしていたが、祖父ほどに楽才には恵まれなかった。ベートーベンが3歳の時に祖父は他界し、父は祖父の地位を継ぐことを期待していたようだが、凡庸な才能ではそれも適わず、アルコール依存症になり、家計も追い込まれることになる。その反動か、幼い息子の豊かな才能を売り出すことに執心した。7歳の息子を6歳と1年サバを読んでまで「神童」ぶりを演出し、コンサートを開いたことからも、父ヨハンの打算が見て取れる。このときの広告や、補聴器などの遺品が現在「ベートーベンハウス」となっているボンの生家に展示されており、その写真も本書に収められている。

 第三章では、ベートーベンが難聴に悩まされはじめ、よく知られる「ハイリゲンシュタットの遺書」へとつながる個人の苦悩と、ナポレオンによる支配というウィーンの社会的な苦悩が並行して描かれる。ピアノソナタ第8番『悲愴』、ヴァイオリンソナタ第5番『春』、交響曲第3番『エロイカ』などが作曲された時期だ。ハイリゲンシュタットの記念館とベートーベンが散歩をしていたという小径の写真は、ゲイリー・オールドマンがベートーベンを演じた映画『不滅の恋/ベートーヴェン』のシーンの記憶とも重なり、想像に輪郭を与えてくれる。

「第9」は合唱なしで演奏されていた

 第四章以降は、ロマン・ロランが名付けた「傑作の森」の時代、ベートーベンの人生における最大のミステリー「不滅の恋人」、甥カールの自殺未遂と親権問題、そして『ミサ・ソレムニス』から交響曲第9番、そして最期の時まで、テンポよく進む。とかく作曲家の伝記物というと、作者の「愛情」がかえって読者には耳障りだったりするものだが、本書は軽快で必要以上に感情移入せず、ベートーベンの生涯を辿っている。メモリアルイヤーに改めて偉大な作曲家の足跡を追うのにぴったりの一冊といえる。

 本書第七章にもあるが、かの第9交響曲は発表からしばらくは合唱の入る第4楽章を省いて演奏されることが多かったそうだ。現代の我々からすればなんとも「もったいない」話である。さて、コロナ禍の中、コンサートなどの入場者制限もようやく緩和されるようだし、NHKでも250周年を記念した番組をいくつも予定している。ホールでも家でも、12月17日の「250歳の誕生日」その日には、「合唱付き」の第9を聴いて祝いたいものである。

 (ベートーベンはベートーヴェンと表記されることが多いが、本稿では書名に従った)

 BOOKウォッチではクラシック音楽関連で『アルゲリッチとポリーニ』(光文社新書)、『悪魔のすむ音楽』(音楽之友社)、『鬼子の歌』(講談社)なども紹介している。



 


  • 書名 ベートーベンの真実
  • 監修・編集・著者名谷克二 著、鷹野晃 写真
  • 出版社名株式会社KADOKAWA
  • 出版年月日2020年8月 7日
  • 定価本体1700円+税
  • 判型・ページ数四六判・160ページ
  • ISBN9784044005696
 

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