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独り立ちする息子に伝えたい50のこと

巣立っていく君へ 母から息子への50の手紙

 毎年桜の咲くころになると、わが子が家を出るまであと何年......とカウントダウンする人も多いのではないだろうか。子が独り立ちする日を想像し、一緒にいられるこの時間を大事にしよう......と評者もしみじみ思ったりする。

 そんなシミュレーションをしている人にぜひ読んでほしいのが、本書『巣立っていく君へ 母から息子への50の手紙』(青春出版社)。子育てサロンを主宰する若松亜紀さんが、今春独り立ちする息子へ贈る「これから生きていくうえで大切にしてほしい」50のメッセージ集だ。

 「覚えていてほしいこと今、贈るね」「伝えてなかったこと、文字にしたよ」――。本書は一母親から息子への個人的な手紙であるとともに、多くの母親が同感、共感するであろう「愛するわが子へ贈る、人生の応援メッセージ」となっている。

「そのうちにと思っていたら」

 著者の若松亜紀さんは、大学卒業後7年間幼稚園に勤務するも、閉園により退職。その後、出産・子育ての経験から2005年「親子の集いの場・陽だまりサロン」をオープン。自宅を開放した親子の集いの場が、少子化日本一の秋田県で「民間からの子育て支援」と話題になる。19年秋田県児童会館「みらいあ」副館長に就任。

 著書に『もう怒らない! これだけで子どもが変わる魔法の"ひと言"』(学陽書房)、『「ほめ方」「叱り方」「しつけ方」に悩んだら読む本』(共著、PHP)など。「直接会えないお母さんには本や講演で元気を届けたい」と、日々「親も子も笑顔に!」をモットーに活動している。

 数年後に迎える子の独り立ちを想像すると切ない。そんなとき本書を読むと、いざ子を送り出すときの親はこんな心境になるのかと、自身の未来を見ているようで参考になる。では、自分は子になにを伝えたいのかと、考えるきっかけになる。

 子が独り立ちする年齢の一つの目安となる18歳。一緒に過ごす時間が18年もあれば、伝える機会はいくらでもありそうだが......。

 「そのうちにと思っていたら、反抗期になり、聞く耳を持たなくなりました。そのうちにと思っていたら、スマホばっかで居間から姿を消しました。 そのうちにと思っていたら、とうとう独り立ちのときを迎えました。」

 いざ18年経ったとき、著者は「結局あれもこれも話してないじゃん、自分」と気づき、「言えないなら、いっちょ書くか」とペンを執ったのが本書だという。本書の最適な読者層は子育て中の人だと思うが、親のいる段階ごとに活かし方があると書いている。

 「お子さんが小さい方は、『今のうちにこんなことを話せばいいのね』とご参考に。反抗期突入なら、『機嫌のいいとき、しゃべってみよう』と引き出しのストックに。『まさしく今が旅立ち』または『もう出た!』という方は、こそっと荷物に忍ばせては? 『せんべつ』とでも書いた袋に入れときゃ開けるでしょう。」

「対・画面」より「対・顔面」

 本書は「第一章 前を向いて歩こう」「第二章 ごきげん主義!」「第三章 コミュ王になれ」「第四章 世の半分は女子だから」「第五章 健康週間より健康習慣」「第六章 無敵の生き方」の構成。

 専門的な話ではなく、著者の個人的な体験や家族のエピソードをまじえてユーモラスに書いている。笑いながら読める、母親の愛情がめいっぱい詰まった「独り立ちする息子に伝えておきたい50の人生指南」となっている。

 ここでは50の中から、親として子に伝えたいと思うとともに、自身もそうして生きたいと思うメッセージを2つ紹介したい。

■いやなあいつが夢にまで ずーんと凹んだときの対処法
 「振り向けば、百人の味方」

 著者が幼稚園教諭になりたてのころ、反りが合わない保護者がいた。「初任者? 大丈夫かしら」などと「やったらエラソー」な態度をとり、子どもが帰った後に電話でもうひと文句言ってくる。あるとき他の先生から「どうした?」と声をかけられ、事情を話すと大笑い。その保護者、誰にでも文句を言う人物であることが判明した。「振り向いたら味方がいました。......苦しくなったら見る方向を変えてごらん。バックには百人の味方がいます。母ちゃんも味方だ!」。

■「この人の言葉は強い!」 そう思わせる体験のばか力
 「3次元に生きよ」

 ネット、テレビ、YouTubeの情報で「行った気、やった気、わかった気」になりがち。「ネットやワイドショーの言葉やコメント。そんな『借り物』を横流しする人間は薄っぺらいで」。そんな人間が増える今、著者がなにより大事にしているのが「体験」。「コピーは複製するたび画質が落ちます。外に出て。ナマの世界で生きて。自分の体験で勝負しなさい。『対・画面』より『対・顔面』」。

「なるたけ顔見て、たくさん言葉を交わして」

 親子で一緒に過ごせる時間はあっという間に過ぎていく。わかっていても、つい目の前のやるべきことに追われ、子と会話をする時間、向き合う時間をじっくりとらないまま、年単位で流れるように過ぎていく。本書を読んで、このまま行ってはいけないと、いったん立ち止まって気づくことができた。

 「そばにいるうち、なるたけ顔見て、たくさん言葉を交わしてください。あなたの想いは必ずや息子さんのどこかに宿ります。」

 若松さんから「同業の母ちゃん」へのこの言葉は、なにが正しいのかわからない子育てにおいて、一つの道標になるだろう。なお、すでに子が独り立ちした後でも手遅れではない。親が気づいた時点で、伝えることはできる。本書は親子の関わり方を明るく教えてくれる、この季節に読みたい一冊。

  • 書名 巣立っていく君へ 母から息子への50の手紙
  • 監修・編集・著者名若松 亜紀 著
  • 出版社名株式会社青春出版社
  • 出版年月日2020年3月25日
  • 定価本体1400円+税
  • 判型・ページ数四六判・224ページ
  • ISBN9784413231527
 

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