「『勉強しなさい!』は勉強ギライにさせる最強の方法です」――。これは開成中学校・高等学校校長、東京大学名誉教授の柳沢幸雄さんの言葉。親としても、できることなら口うるさく言いたくはない。ただただ、わが子が自発的に勉強するようになってくれたら......これは親の共通の願いだろう。
そんな声に応えるのが、中学受験専門塾伸学会の2名が執筆した本書『「やる気」を科学的に分析してわかった 小学生の子が勉強にハマる方法』(実務教育出版)。
本書のキーワードは「ARCS(アークス)モデル」。これは科学的に実証されたもので、誰でも再現できる勉強を楽しんで取り組む「技術」という。「ゲームばかりしている子も、どんなにイヤがる子も、自分から勉強するようになる!」という「ARCSモデル」とは、一体どんな「技術」なのだろうか?
著者の菊池洋匡(きくち・ひろただ)さんは、中学受験専門塾伸学会代表。開成中学・高校・慶應大学法学部法律学科卒業。中学受験の第一志望校合格者は4人に1人と言われる中、毎年40%以上の生徒を第一志望校に合格させている。「自ら伸びる力を育てる」をコンセプトに、少人数制のアットホームな雰囲気の中、学力の土台となる人間性から作り上げる指導を徹底している。
秦一生(はた・かずき)さんは、伸学会開発部主任。菊池さんの教え子。開成中学・高校では手品に打ち込み、成績は学年ワースト5。大学受験時に一念発起して東京大学に合格したが、手品にのめり込み1年遅れで卒業。伸学会独自の教科「ホームルーム」のカリキュラムを制作し、生徒が自己管理しながら自主的に学習するための指導法を考案している。
本書で紹介されている子どもを勉強好きにするための科学的なコツの大枠は、「ARCSモデル」と呼ばれる学習意欲のモデルに則っている。これは、アメリカの教育工学者J・M・ケラーが心理学における動機づけ(やる気)研究をまとめたもの。学習意欲(やる気)を次の4つに分類している。
■1 Attention(注意)「面白そう!」
■2 Reason(理由)「役立ちそう!」
(ケラーの原案では「Relevance(関連性)」とされているが、伸学会ではよりわかりやすい「Reason(理由)」に言い換えている。)
■3 Confidence(自信)「できそう!」
■4 Satisfaction(満足感)「やってよかった!」
つまり「やる気の源には大きく分けて4つのパターン」があり、4つ全てを揃えなくても、1つから2つ、2つから3つと増えるにつれて勉強が楽しくなっていくという。また、「ARCSモデル」は教育に限らず、グーグル社をはじめ職場での指導にも活用されている。子どもと大人、双方のやる気を引き出すのに有効なモデルのようだ。
本書はやわらかい文体とユーモアのあるマンガ・イラストにより、難しく考えずに楽しく読める。各章で紹介されている10前後の具体的なアイデアがどれも興味深い。
■1章 Attention~勉強に「ワクワク」させる~
キリの悪いところで勉強を終わらせる/スーパーで買い物しながらクイズを出す ほか
■2章 Reason~勉強に「やりがい」を感じさせる~
6つの「やる気エンジン」に火をつける/「脳は2階建て」と知っておこう ほか
■3章 Confidence~「自分もできそう」と思わせる~
難しすぎる問題では成長しない/慰めはNG! テスト結果が悪いときに親がすべきこと ほか
■4章 Satisfaction~「勉強してよかった」と実感させる~
やってはいけない5つのご褒美のあげ方/さらば完璧主義、ようこそ最善主義 ほか
たとえば「1章 Attention~勉強に『ワクワク』させる~」の「スーパーで買い物しながらクイズを出す」は、覚える量が多い理社の勉強には「1回の授業よりも繰り返されるスーパーでのクイズ大会」が有効という。「このピーマンはどこの都道府県のものでしょう?」「北関東の食材を探せ!」と親が問題を出すことで、子は各地の農産物を覚えていくという。これはほんの一例だが、本書は今すぐ試したくなるアイデアが多い。
本書の材料は2つあるという。1つは、過去の様々な教育心理学研究。大学で使用する教育心理学の教科書や論文を踏まえつつ、その教科書に出てくる研究者の本も参考にしている。巻末の参考文献リストは、気になったところをより深く知りたい時に役立つ。
もう1つは、伸学会での指導経験。様々な本を読みながら日々の授業で実践しているため、教室は壮大な実験場になっているという。これまで溜めてきた「自信を持ってお伝えできる実践」をまとめたのが本書、ということになる。
「全部を実践しようとしなくても構いません。楽しめる範囲で実践して、充実した時間を過ごしてもらえればと思います」
親は、子に無理やりでなく楽しんで勉強してほしいと願う。でもその前に、親自身が義務感、使命感にとらわれて子育てしていないだろうか? 親の張りつめた気持ちが子に伝染して悪循環に陥ることもある。できないこと・足りないことでなく、できること・楽しいことに敏感になりたいものだ。
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