読むべき本、見逃していない?

人生や家族に「普通」「正しい」はない

それでも、母になる

 学校を出て、数年働いて、適齢期に結婚、出産する。女性はこうした既定路線に乗って生きていくのが「普通」。しかし昨今、結婚適齢期の概念は薄れ、結婚を選択しない人が増え、同性カップルの話題を見聞きすることも多い。「普通」の枠組みも「平均的」な女性像も、なくなりつつあるのを感じる。

 本書『それでも、母になる ―生理のない私に子どもができて考えた家族のこと―』(ポプラ社)は、生まれつき生理がなく、母になること、家族を持つことに葛藤を抱えていた著者が、さまざまな境遇の女性を取材し、「家族」をテーマにまとめたルポ。著者自身と取材した女性たちの現実を忠実に、赤裸々に伝えている。漠然と知った気になっていた多様化する女性の生き方を、リアルに知ることができた。

生まれつき生理と排卵がない

 著者の徳瑠里香(とく・るりか)さんは、1987年愛知県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。出版社で書籍やWEBメディアの企画・編集・執筆を行った後、オーガニックコスメブランドのPRなどを経て、独立。現在は「女性の選択と家族のかたち」を主なテーマに執筆活動を行う。本書が初の単著となる。

 「いずれ私も結婚して、子どもを産んで、自分の家族を築いていく。いつか、母になる。何の疑いもなく、そう思っていた」

 ところが、徳さんは16歳になっても初潮がなかったため、母に連れられ産婦人科を受診。定期的に通い、注射と飲み薬でホルモンを投与して生理を起こした。その後、18歳で「原発性無月経」と診断された。徳さんの場合、自然に生理と排卵が起きることはないが、子宮や膣などの機能や染色体などに異常があるわけではなく、その原因となる具体的な疾患は不明。産める可能性はゼロではないが、不妊症であることは明らかだった。

 10年以上、「何の保証もないまま、少しの可能性を信じて」ホルモンを投与し、生理を起こす治療を続けた。29歳になる頃、徳さんは奇跡的に妊娠した。

「ほかの誰とも『違う』人生」

 安定期に入った頃、自身の身体の事情と妊娠について、ハフィントンポスト日本版に投稿した。記事を読んだ友人知人が自身の身体や家族について話してくれるようになり、徳さんは「見える世界が少しだけ変わった」という。

 「大なり小なり、誰もが、それぞれの事情とともに、ほかの誰とも『違う』人生を生きている」

 彼女たちは、自分の心と身体とどう向き合っているのか? 母になるとは? 家族とは? 徳さんの中にこれらの大きな問いが生まれ、身近にいる女性たちに話を聞いていくことにした。

1 あなたは私の特別なひと
16歳で妊娠、高校生で母になる ―美菜子―
大切な人の死とともに、歩み続ける ―翠―
私の事情を受け止めた人 ―夫―

2 産んでも、産まなくても
子宮がない、産まない人生を選ぶ ―洋子さん―
夫と腎臓をはんぶんこして生きる ―はるかさん―
産めない母と育てられない母 ―直美さん―
養子、血のつながらない親の子 ―桜ちゃん―
心許ない私の子宮に命を宿した子 ―娘―

3 家族という居場所をつくる
女から男へ、本来の性で家族を築く ―ナリさん―
里親、社会で子どもを育てるお母さん ―綾子さん―
私の居場所をつくる人 ―母―

 16歳で妊娠して母になった友人、亡くなった恋人を想い続ける友人、産まない人生を選び仕事に邁進する先輩、夫婦間で腎臓移植をして絆を深めた友人、不妊治療の末に特別養子縁組をした知人、養子として育てられた後輩、トランスジェンダーで性転換をしてシングルマザーと結婚した友人、里親として子どもたちを育てる先輩......。

 これほどの事情を抱える女性たちが身近にいることに驚く。徳さんは一人ひとりの話に真摯に耳を傾け、丁寧にまとめている。

「わたし」を主語に考える

 徳さんは、本書の読者にある「きっかけ」を与えたいと書いている。

 「この本では、生まれつき生理と排卵がない私が子どもを授かり、産むことに向き合いながら、家族について考えたことをまとめている。書かれているのは、私という一人の人間が体験した、あるいは見て聞いて感じた、今を生きる『わたし』たちの断片的な物語。......あなたが、『わたし』を主語に、自分の人生や家族について、何かひとつでも考えるきっかけになったらとても嬉しい」

 人生・家族というテーマの中から、妊娠・出産を取り上げて評者の個人的な体験を書くと、流産した経験、双子の片方を死産した経験を数人の知人から聞いたことがある。評者自身、子が乳幼児健診で引っかかり検査を受けたことがある。一切問題のない妊娠・出産はなく、誰しも何らかの心配事を抱えているものだとつくづく思う。

 「相手と関係性を育み家族をつくることは、想定外でままならないことの連続だ。それでも、受け入れ、選択を重ねて、自分の家族をつくる彼女たちの物語は、知らず知らずのうちにとらわれていた『普通』や『正しさ』を解きほぐしてくれた」

 本書を読み、「普通」とはこういうもの、ちょっと違ってもせいぜいこのくらい、という自分の中に無意識のうちに持っていた固定観念が揺らいだ。人生や家族に「普通」「正しい」はないと、著者を含む彼女たちの生き方に教えられた。

  • 書名 それでも、母になる
  • サブタイトル生理のない私に子どもができて考えた家族のこと
  • 監修・編集・著者名徳 瑠里香 著
  • 出版社名株式会社ポプラ社
  • 出版年月日2019年8月23日
  • 定価本体1500円+税
  • 判型・ページ数四六判・247ページ
  • ISBN9784591163627

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