2020年4月7日に今年の本屋大賞が発表される。BOOKウォッチでは、候補10作品のうち、既に5作品を紹介済みだ。(本文末尾参照)
まだ取り上げていなかった作品を発表までに順次、紹介していきたい。まずは、相沢沙呼(あいざわ さこ)さんの『medium 霊媒探偵城塚翡翠』(講談社)から。
長いタイトルだが、冒頭の「medium」は、「メディウム=媒介、媒体」を意味する。主人公の城塚翡翠(じょうづか ひすい)は死者の言葉を伝えることができる霊媒だ。おどろおどろしい内容かと思うと、本書は『このミステリーがすごい!2020年版』国内編1位になった本格派推理小説だ。
今回、本屋大賞の候補となり、全国の書店員から多くの支持の声がネットに寄せられている。「すごい」「圧倒された」「どんでん返しが素晴らしい」と感嘆するものがほとんどで、内容に言及するものは少ない。そう、本書は内容を紹介することが極度に難しい書評家泣かせの作品と言ってよい。
それは単にネタばれになるからという以上に、本書の持つ構造ゆえの言語的問題をはらんでいるからである。
慎重に、本の帯から引用しよう。
「推理作家として難事件を解決してきた香月史郎は、心に傷を負った女性、城塚翡翠と出逢う。彼女は霊媒であり、死者の言葉を伝えることができる。しかし、そこに証拠能力はなく、香月は霊視と論理の力を組み合わせながら、事件に立ち向かわなくてはならない。一方、巷では姿なき連続殺人事件が人々を脅かしていた。一切の証拠を残さない殺人鬼を追い詰めることができるとすれば、それは翡翠の力のみ。だが、殺人鬼の魔手は密かに彼女へ迫っていた――」
プロローグで、ここ数年、関東地方を騒がせている連続死体遺棄事件についての言及がある。判明しているだけで8人もの女性を殺害していると見られている。推理作家の香月史郎と翡翠のコンビは有名になり、相談に訪れる人が後を絶たない。「私の予感は絶対です」と語る翡翠を香月がどうフォローしてきたのか。
「第一話 泣き女の殺人事件」、「第二話 水鏡荘の殺人」、「第三話 女子高生連続絞殺事件」、「最終話 VSエリミネーター」と4つの事件の記述があり、その間に殺人鬼による犯行と独白が挿入される。
翡翠による霊視は、殺人事件の現場で行われる。第一話は、いきなり相談者が殺されるという波乱に始まり、彼女が犯人を名指しするという展開。その霊視を香月が論理的に解釈して、捜査陣に情報を提供する。こんな形で小説は展開する。
クォータリーという設定の翡翠のキャラクターが魅力的だ。遠田志帆さんのカバーイラストがかわいい。
著者の相沢沙呼(あいざわ さこ)さんは、1983年埼玉県生まれ。2009年『午前零時のサンドリヨン』で第19回鮎川哲也賞を受賞しデビュー。2011年「原始人ランナウェイ」が第64回日本推理作家協会賞(短編部門)候補作、2018年『マツリカ・マトリョシカ』が第18回本格ミステリ大賞の候補作となる。青春小説の『小説の神様』(講談社タイガ)は、実写映画化が発表された。
本書は相沢さんが、出発点のミステリに回帰した堂々たる本格派推理作品。同じ現象が見る人によっては、まったく違う論理で説明されるという理詰めの作風だ。読者は読後、手品を見せられた思いで嘆息するだろう。そして「すべてが伏線」という本の帯の文句をかみしめるに違いない。
BOOKウォッチでは、本屋大賞候補作のうち、砥上裕將(とがみ ひろまさ)さんの『線は、僕を描く』(講談社)、川上未映子さんの『夏物語』(文藝春秋)、直木賞を受賞した川越宗一さんの『熱源』(文藝春秋)、横山秀夫さんの『ノースライト』(新潮社)、小川糸さんの『ライオンのおやつ』(ポプラ社)を紹介済みだ。
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