読むべき本、見逃していない?

本屋大賞ノミネート! 「死が怖くなくなるような物語」

ライオンのおやつ

 小川糸さんの本書『ライオンのおやつ』(ポプラ社)は、タイトルから内容を想像するのがむずかしい。帯には「毎日をもっと大切にしたくなる物語」「作家・小川糸の真骨頂」とある。何気なく読みはじめると、余命宣告された三十三歳の女性が、ホスピスで過ごす人生最後の日々が綴られていた。

 ポプラ社公式サイト内の本書特設サイトに「今年最大級の感動作!!」とある。本書は昨年(2019年)の発刊だが、今年を含めても間違いなく「最大級の感動作」だろう。序盤から読了までじんわり泣きつづけた評者はそう思った。

 本書は、芥川賞・直木賞と同日に発表された第11回「新井賞」を受賞。さらに「2020年本屋大賞」にノミネートされている。

瀬戸内の島のホスピスへ

 三十三歳の雫は、ステージⅣの癌で余命宣告を受けた。事故死した両親の代わりに自分を育ててくれた叔父を、雫は「父」と呼ぶ。父の平穏な暮らしを乱したくないと、雫は病気のことを父に知らせていない。

 12月25日、雫は人生最後の日々を過ごすため、瀬戸内の島に到着した。そこは「ふんわりとメレンゲで形を作ったような、なだらかで丘みたいな島」。かつてたくさんの国産レモンが栽培されていたため「レモン島」と呼ばれている。

 「終の住処、とよく言うけれど、ここは私にとっての、終の島ということになる。悪くないのかもしれない。天井の低い殺風景な部屋でひとり淋しく凍えるように死を迎えるより、ずっといい選択だった」

 ホスピス「ライオンの家」は「まるで隠れ家ホテルにいるような、優雅な気分にさせてくれる空間」であり「常に、誰かの大きな微笑みに見守られているような気持ちになる」ところだった。

 「ライオンの家」は、医師をはじめ常時十数名がスタッフとして支えている。積極的な治療や延命行為はしないが、痛い時や苦しい時は苦痛を和らげるため最大限の策を練る。「ライオンの家」を主宰する「マドンナ」は、緩和ケアを専門とする医師と連携しながら適切な処置をほどこす看護師。「マドンナ」の存在は、ゲストの体と心の大きな支えとなっている。

「おやつの時間」は生きる希望

 「ライオンの家」には「おやつの間」というユニークな部屋があり、毎週日曜日の午後三時からお茶会が開かれる。ゲストは「もう一度食べたい思い出のおやつ」をリクエストでき、毎回ひとりの「思い出のおやつ」が忠実に再現される。「おやつ」という言葉の響きに「独特のふくよかさというか、温もり」を感じつつ、雫は何を選ぼうかと悩む。

 「ライオンの家」に来たことで、いくつもの出会いに恵まれ、瀬戸内の風景を眺め、ごはんのおいしさを知った。運命を呪ってばかりいた過去の自分を反省し、雫は今ここに生きて存在することへの「深い深い祈りにも似た感謝」を神さまに伝えたいと思うようになる。

 「なるようにしかならないから大丈夫だと、海を渡る波風が、私にそっと耳打ちする。......あともう少しだけこの断崖に立っていれば、あっち側の世界へいける。そのタイミングを早めることも、遅らせることも、私にはできない。私にできるのは、ただ、ここでじっと待つことだけだ」
 「最後まで人生を味わい尽くすこと。......端から端までクリームがぎっしり詰まったあのチョココロネみたいに、ちゃんと最後まで生きることが、今の私の目標だ」
 「私は、私自身をこの両腕で強く抱きしめ、その背中に、お疲れ様、よくがんばったな! とねぎらいの言葉をかけたかった」

 物語が進むとともに、雫の命の終わりが近づいてくる。徐々に意識が混濁し、時間の感覚を失いつつある雫にとって、おやつの時間は「生きる希望」となり「節目」となっていく。雫は人生の最後に食べたい「思い出のおやつ」に何を選ぶのだろうか――。

癌が見つかった母親の言葉

 小川糸さんの公式サイト「糸通信」の「あとがき」によると、小川さんの母親に癌が見つかったとき、母親が「死ぬのが怖い」と言ったことが、この物語を書くきっかけになったという。

 「多くの人は、母と同じように、死に対して、漠然とした不安を抱いているのだろう。ならば、死が怖くなくなるような物語を書いてみようと思ったのだ」

 命はいつまでもつづくと思っていたら気づけないことを、命の終わりを知った雫の視点から気づかされる。死はどういうものかを想像し、自分の生き方を意識するきっかけを本書は与えてくれる。評者はすっかり、小川さんの文章の虜になった。これほどたくさん、心にしまっておきたい言葉に出合える作品はあまりない。

 小川糸さんは1973年生まれ。2008年『食堂かたつむり』でデビュー。同作は10年に映画化され、11年にイタリアのバンカレッラ賞、13年にフランスのウジェニー・ブラジエ賞を受賞。12年には『つるかめ助産院』が、17年には『ツバキ文具店』がNHKでテレビドラマ化された。

  • 書名 ライオンのおやつ
  • 監修・編集・著者名小川 糸 著
  • 出版社名株式会社ポプラ社
  • 出版年月日2019年10月 7日
  • 定価本体1500円+税
  • 判型・ページ数四六判・255ページ
  • ISBN9784591160022

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