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書店員・新井さんの「本屋あんまり関係ない」エッセイ

この世界は思ってたほどうまくいかないみたいだ

 「書店員のエッセイ」と聞き、どんな内容をイメージするだろう。三省堂書店員・新井見枝香さんの「本屋にまつわるエッセイ」を収録した『本屋の新井』(講談社)を本欄で紹介したが、最新刊『この世界は思ってたほどうまくいかないみたいだ』(秀和システム)は「本屋あんまり関係ないエッセイ」という。カリスマ書店員、型破り書店員と呼ばれる新井さんが書いたものとは?

「ありのままを書きたい」

 新井見枝香さんは東京都出身、1980年生まれ。アルバイトで三省堂書店に入社し、契約社員数年を経て、現在は正社員として文庫担当。文芸書担当が長く、作家を招いて自らが聞き手を務める「新井ナイト」など、開催したイベントは300回を超える。独自に設立した「新井賞」は、同時に発表される芥川賞、直木賞より売れることも。出版業界の専門紙「新文化」にコラム連載を持ち、文庫解説や帯コメントなどの依頼も多い。テレビやラジオの出演多数。

「ありのままの君が好き、などと気色の悪い台詞を聞きたいわけではない。だが、自分のために、ありのままを書きたい、という強い願望がある。他人にどう思われてもいいと腹の底から思えたとき、新井史上最高のエッセイが書けるのかもしれない」

 「他人にどう思われてもいいと腹の底から思え」る境地には達していないようだが、そこまで書いて大丈夫か...と読んでいる側が心配になるほど、本書は新井さんのプライベートや心の内が大胆に披露されている。

4つの「うまくいかない」を赤裸々に

 本書は「うまくいかない仕事」「うまくいかない美」「うまくいかない恋」「うまくいかない人生」の4つのPartから成り、全36編を収録。見ただけでは内容に全く見当がつかない見出しが並ぶ。仕事、職場、本の話も出てくるが、自虐ネタ、ストリップネタまで出てきて衝撃を受けた。

「自分の本の売れ数を見てニヤニヤしている姿を、どうしても同僚には見られたくない自意識過剰系妖怪」(「妖怪ホンカゾエー」)

「お前みたいな暑苦しい顔、全然好きじゃないんだってば」(「髪は全裸で切るに限る」)

「困ったな、ストリップで頭が一杯だから、何を書いても脱いでしまう」(「拭いてもらいたいのはお尻じゃありません」)

「私はテレビに出ることで、ギャラを稼ごうとは思っていない。そこで得る信頼と影響力はプライスレスで、今後私が売りたい本を売るときに必ずや役に立つだろう」(「ロケ弁と駅弁はノーカロリー」)

「制服を着て笑う私の顔の横に『隠れた名作を発掘します!』と吹き出しが出ていてマジでコーラを吹き出した事件」(「隠れた名作を発掘しません」)

この世界で最もうまくいかないのは?

 本書を読むと、新井さんはブラックユーモアの切れ味の良さとともに、鋭い感性を持つ方だとわかる。

 異動が決まり、有楽町店を去る際、物に対する思い入れのない新井さんは、手作りのPOPもパネルもどんどん捨てた。しかし、「人生で最も憧れた書店員の遺品」であるノートは、捨てられなかった。

「紙に書いた文字は重たい。...人間が確かに生きていた、という証みたいなもの。ついさっきまで誰かが座っていた座布団のへこみのようなもの。その重さを作るのにかかった、途方もない時間が重い」(「読まなくなった本は捨てるけれど」)

 新井さんの活躍の裏にある、ひっそりとした部分にも触れている。

「仕事中、バックヤードでひとり『死にたい』とつぶやかない日はない。思春期かな。......就寝中、排泄物や老廃物でない何かを空中に放っていると思われる私は、体の一部を損なって目覚める。罪悪感や絶望を軽減させて、昨日とは違う私になっている」(「シャービックの祈り」)

 新井さんは最後に「ほんと付き合ってられないのは、傾斜角度スキージャンプ級の、私の『機嫌』だ」と書いている。不機嫌で得することは皆無だとする一方、唯一の例外が「エッセイを書くこと」。「機嫌が悪いときこそ筆が乗る」という。新井さんのエッセイは、その潔い書きっぷりが心地良い。

  • 書名 この世界は思ってたほどうまくいかないみたいだ
  • 監修・編集・著者名新井 見枝香 著
  • 出版社名株式会社秀和システム
  • 出版年月日2019年2月15日
  • 定価本体1,000円+税
  • 判型・ページ数B6判・200ページ
  • ISBN9784798055978

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