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人生最後に、どんなドレスを選びますか?

エンディングドレス

 本書『エンディングドレス』(ポプラ社)は、32歳の麻緒(あさお)が、死の準備をするために「死に装束を縫う洋裁教室」に通う物語。

 冒頭から、かなり緊迫した空気が漂う。麻緒が健康保険証の裏の臓器提供意思表示欄に丸をつける場面。家族署名欄で手が止まり、夫・弦一郎の横顔が浮かぶ。しばらく着っぱなしで染みのついたスウェット、主食がアイスキャンディの食生活、「ToDoリスト」に書かれた「パソコン・スマホの破壊」「ロープの購入」の項目。これは一体?と心配しつつ読み進めると、麻緒の置かれているこの絶望的な状況は、弦一郎の死によるものだとわかる。

「終末の洋裁教室」
「春ははじまりの季節。さあ、死に支度をはじめましょう。あなただけの死に装束を、手づくりで」
 ロープを購入しに行ったホームセンターで見かけた、1枚のポスター。さっさと人生の幕を閉じるつもりの麻緒だったが、「ToDoリスト」に「死に装束を縫う」の項目を追加する。その前に出された、6つの課題とは――。
1 はたちのときにいちばん気に入っていた服はなんですか
2 十五歳のころに憧れていた服を思い出してみましょう
3 思い出の服をリメイクしましょう
4 自分以外のだれかのための服をつくってください
5 自己紹介代わりの一着を縫いましょう
6 つぎの季節のための服をつくってください
 麻緒は無心に課題をこなす中で、教室のメンバーそれぞれに辛い過去があることを知り、そしてただの布が洋服へとすがたを変えていくことに達成感を覚える。これで明るい方へ行けるかと思いきや、「記憶の封印を解いて、自分を奈落の底へ突き落さなければいけない」と自分を戒める声が。麻緒は、自分を赦せないほどの過ちを抱えていた。麻緒は、自己を肯定し、1度止めた人生を再び生きようと思えるのか――。

 麻緒が弦一郎を回想する場面に、涙が出る。麻緒に手を差し伸べたくなる。麻緒が立ち直っていけるようにと、願いながら読んだ。服についてじっくり考えたことはなかったが、本書を読むと、なるほど、思い出を大切に留めたり、新たなステージへ人を運んだり、服の持つ影響力が大きいとわかる。

 著者の蛭田亜紗子は、1979年北海道札幌市生まれ、在住。広告代理店勤務を経て、2008年「自縄自縛の二乗」で「女による女のためのR-18文学賞」大賞を受賞。同作品を改題・収録した『自縄自縛の私』(新潮社)で10年にデビュー。他の著書に『人肌ショコラリキュール』(講談社)、『愛を振り込む』(幻冬舎)、『フィッターXの異常な愛情』(小学館)、『凜』(講談社)などがある。

BOOKウォッチ編集部 Yukako)
  • 書名 エンディングドレス
  • 監修・編集・著者名蛭田 亜紗子 著
  • 出版社名株式会社ポプラ社
  • 出版年月日2018年6月 7日
  • 定価本体1500円+税
  • 判型・ページ数単行本・238ページ
  • ISBN9784591155103

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