タイトルからは何の本かわからない。『静かなる変革者たち』(ペンコム)。副題に「精神障がいのある親に育てられ、成長して支援職に就いた子どもたちの語り」とある。それを見て内容の想像がつく。まさにその通りのことが実例とともに報告されている。
本書の主たる編著は、横山恵子さんと蔭山正子さん。横山さんは看護師で、埼玉県立大学保健医療福祉学部看護学科・大学院保健医療福祉学研究科教授。蔭山さんは保健師で、大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻公衆衛生看護学教室准教授。
この二人のコンビではすでに『精神障がいのある親に育てられた子どもの語り』(明石書店)を出している。18年1月、BOOKウォッチで同書を紹介したところ、長期にわたってランキングのトップを続けた。反響の大きかった本だ。
本書では4人の実例が登場する。精神保健福祉士の坂本拓さん、精神科看護師の林あおいさん、精神科訪問看護師の山本あきこさん、精神保健福祉士で就労支援員の田村大幸さん。
自分が幼少のころ、活発で格好良かった自慢の母が、中学生のころに再婚、変化が現われる。そして自殺未遂。あるいは小学校2年の時に母が突然発症、意味不明なことを口走り暴れだす。生まれた時にすでに親が発症していたケースもある。
子どもは、親の変調を理解できない。怖くて押入れに閉じこもる。高校生ぐらいになってネットで調べて親が病気だと知る。子どもの方も追い込まれ自傷を繰り返す。あるいは自分も同じ病気を発症してしまう――本書に登場するのは、そうした逆境をバネに病者を支援する側に回った人たちの記録だ。それでも、「このお母さんの子どもにうまれてよかった」と言えるようになるまでの葛藤を知る。
登場しているのはいずれも「精神疾患の親をもつ子どもの会(こどもぴあ)」のメンバー。20代の若い人たちが中心になって2018年2月に東京で発足した。その後、大阪、札幌、福岡と活動が広がっている。「家族による家族学習会」など様々な活動を続けている。
編著者の二人が、初めて精神障がいの親をもつ子どもの立場の人に出会ったのは2013年のことだという。千葉県で通常の「家族会」の会合に出た時、障がいをもつ子どもの親がほとんどを占める中でただ一人、親が障がい者だという「子どもの立場」の人がいた。その人の話から、子どもの立場の人たち同士の少人数の交流会があることを知る。さらに横山さんらが中心になって、子どもを軸にした学習会を続け、それが「こどもぴあ」につながっていく。
精神障がい者の家族支援というと、これまでは「家族=親」のことだった。関係者の数年に及ぶ努力の積み重ねによって、ようやく「家族=子ども」も注目されるようになってきたという。
横山さんによると、精神疾患で医療機関にかかっている患者は全国で約419万人。子育てをする患者数は把握されていないが、統合失調症の女性患者で出産経験がある女性は3~4割という報告もあるという。
本書は「体験記」「座談会」「考察」の3部構成。世間の表舞台には浮かび上がっていないが深刻な問題について関係者が地道に努力し、課題と向き合っていることがよくわかる。
本書の「静かなる変革者たち」というタイトルに納得する。
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