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朝日新聞は「敏腕女性記者」に逃げられた・・・

スノーデン・ファイル徹底検証

 エドワード・スノーデンはアメリカが世界に張り巡らせた秘密の情報収集活動を内部告発した人物として有名だ。アメリカ国家安全保障局 (NSA) および中央情報局 (CIA) で働いていたが、今や米政府から追われる身であり、ロシアに逃げているという。

 本書『スノーデン・ファイル徹底検証――日本はアメリカの世界監視システムにどう加担してきたか』(毎日新聞出版)は、主として日本との関わりについて報告したもの。著者の小笠原みどりさんは、スノーデンに日本人として初めてインタビューした人として知られる。膨大な「スノーデン・ファイル」の中から、日本に関係する部分をピックアップし、日本政府も関与しているシークレットな情報収集活動の全容を改めて詳述している。

スノーデンに初めてインタビュー

 まずは小笠原さんの経歴から。1970年生まれ。早稲田大学法学部を卒業して朝日新聞記者になり、戦後補償、沖縄米軍基地、盗聴法や住民基本台帳ネットワークなど、監視社会問題を報道した。2004年に米国スタンフォード大学でフルブライト・ジャーナリスト研修を受け、退社、05年からカナダのクィーンズ大学大学院へ。監視研究の先駆者、ディヴィッド・ライアンに師事した。16年に日本人ジャーナリストとして初めてスノーデンにインタビュー、それをもとに『スノーデン、監視社会の恐怖を語る 独占インタビュー全記録』(毎日新聞出版)を刊行している。ネットでは高い評価を受けている本だ。

 スノーデンは2013年、NSAによる国際的電子監視網(PRISM)を告発し、全世界に衝撃を与えた。アメリカが世界中の通信データを傍受し「監視」しているという信じがたいような諜報活動の実態を暴露したものだった。その後、17年4月にNSA日本関係文書が初公開された。

 その内容は当時、NHKがニュースで特報し、「クローズアップ現代+」も二度にわたって報じた。しかし、すでに上記の著書を出していた小笠原さんにとっては食い足りないものだった。そこで当時「サンデー毎日」「月刊Journalism」「AERA」で問題点などを指摘していた。その後、小笠原さんは博士論文の執筆に没頭、1年間ほど日本語の文章から離れていたが、無事クィーンズ大学大学院で、近代日本の国民識別制度と植民地監視システムに関する論文で社会学博士号を取得し、改めて書き下ろしたのが本書だ。この間に、18年には日本関係のスノーデン文書が追加公開されている。

横田基地に勤務していた

 本書は、以下の構成になっている。

 「序章 見えない監視と新しい情報統制――スノーデン証言が照らし出す日本の『監視法制』」
 「第1章 共謀罪とスパイ化する権力――スノーデン・ファイルの核心を外したNHK」
 「第2章 『象のオリ』をめぐる日米密約―― 沖縄で監視システムに投入された日本の税金」
 「第3章 アンテナとドローンによる戦争―― 横田基地はサイバー攻撃の新中枢、三沢基地はハッキング最前線」
 「第4章 国家監視に協力するネット企業と通信会社―― 告発の先達マーク・クライン・インタビュー」
 「第5章 ネット監視に乗り出す日本の治安機関―― 防衛省、自衛隊、警察、内閣情報調査室 」
 「終章 監視が世界を不安定化させている――全体主義と監視資本主義の台頭」

 スノーデンは2009年から2年間、横田基地に勤務しており、日本の実情についても詳しい。そんなこともあり20点ほどの日本関係文書は、読み込むにつれ、主要な輪郭を描くように選ばれていたことがわかったという。

 連合軍による日本占領期にさかのぼるNSAの隠れ事務所の歴史的背景、日米密約の構造、日本政府による巨額の財政支援、米軍基地が集中する沖縄で「移設」の名の下に新設された監視施設、NSA日本代表部がある米空軍横田基地のアンテナ工場増設、日本政府へのエックスキースコア(最先端監視技術)の提供、内閣情報調査室が主導し、防衛庁が実施するネット大量監視――などの諸事象が有機的なつながりを持っているということを伝える。

 アメリカ側は、日本に秘密保護法ができれば、「NSAは日本にもっと機密レベルの高い情報を提供できる」とニンジンをぶら下げていた。こうした背景を考えると、著者は「盗聴法大幅拡大も共謀罪も単発の出来事ではなく、国による現在は違法な監視を合法化するという目的に合致する一連の監視立法ではないか」との疑念を強くする。つまり、近年の日本政府による様々な形での「監視強化」「情報統制」はアメリカの意を受けたものというわけだ。本書を読めば、その代わりにアメリカからエックスキースコア(最先端監視技術)の提供を受け、そこには北朝鮮や中国に関する機密情報が含まれているのだろうと推測できる。

NHKスペシャルが「日本の諜報」放送

 NHKは18年5月に、スノーデン日本関連ファイルの続報として、「NHKスペシャル 日本の諜報 スクープ 最高機密ファイル」を放送した。小笠原さんによれば、前回の「クロ現+」を軌道修正した内容だった。とりわけ米国と連携を強める防衛省や内閣情報調査室の活動について踏み込んだもので、12年から内閣情報調査室の主導の下、ネット監視に本腰を入れている様子などを伝えていたが、NHKの取材に対して内閣情報調査室は「文書については出所不明のものであり、コメントは差し控えさせていただきます」とそっけなかった。

 そういえば、『内閣情報調査室――公安警察、公安調査庁との三つ巴の闘い』 (幻冬舎新書)に、この番組についての政府側の反応が出ていたことを思い出した。「杉田官房副長官と北村内閣情報官は憤りを隠さなかった」という。それでも小笠原さんは「NSA文書の核心部分に踏み込み、詳細を伝えたとは言えない」と手厳しい。

 もちろん、こうした国家によるネット監視まで含む諜報活動について、国の安全のために国民は一定程度、受忍すべきという考え方もあるだろう。ならば、その「一定程度」とはどれくらいなのか。国民に知らされないまま、政府の随意的な個人情報収集活動がどこまで許されるのか。「インターネット大量監視に踏み切った日本――1時間に50万件の通信を収集」「福岡県太刀洗通信所は日米共同の監視拠点」などを知ると、心中複雑な人もいるに違いない。

 本書ではこのほか、「辺野古で抗議する人々をリスト化――防衛省と警備会社」「イラク派兵に反対する人々を監視――陸上自衛隊情報保全隊」など、すでに報道済みの出来事にも触れられている。近年、当局による監視活動はエスカレート、市民の政治的活動の自由が抑圧されていることを厳しく指摘している。

アメリカが主で日本は従

 スノーデン文書によれば、日本はすでに米国の世界的な諜報活動ネットワークに組み込まれているわけだが、両者の関係は対等ではない。『スノーデン 監視大国 日本を語る』(集英社新書)によると、米国にとって日本は、「第三グループ」だという。「第二グループ」は英国など英語を母語とする白人中心国家。「第一」は米国だ。日本は、今は米国に従順だが、未来永劫いつまでもこの関係が続くか分からない。したがって、エックスキースコア(最先端監視技術)の中の一部だけが提供されている。さらに言えば、NSAは日本のインフラに侵入し、ダメージを与える能力も持つという。

 本書でも紹介されているが、07年にアラスカで開かれた国際捕鯨委員会では、NSAが日本の交渉団を盗聴していた。15年に内部告発サイト「ウィキリークス」が暴露したNSAによる大規模な盗聴事件「ターゲット・トーキョー」は、NSAが内閣府、経済産業省、財務省や、日銀、同職員の住宅、三菱商事、三井物産など計35回線を盗聴し、対米交渉や国際会議の前に日本政府の手の内を米国政府内に伝えていたことを明らかにした。テロとも安全保障とも無関係な活動だ。アメリカは日本でやりたい放題――日米地位協定などで規定されている日米関係を改めて見せつけた一件だった。

 本書は近年の日米関係と日本政府の有様を、スノーデン文書をもとにしながら大胆に解明していく。様々な事象をわしづかみにして一気呵成に論じる様子は、日本というより、欧米のジャーナリストをほうふつさせる。小笠原さんは現在、オタワ大学特別研究員だというが、日本の大手マスコミも常時、関係を持っていた方がよさそうな人だ。朝日新聞は惜しい人材に逃げられたと言えるかもしれない。

 BOOKウォッチでは、『監視社会と公文書管理――森友問題とスノーデン・ショックを超えて』(花伝社)、『日本の情報機関―知られざる対外インテリジェンスの全貌』 (講談社+α新書)、『自衛隊の闇組織――秘密情報部隊「別班」の正体』(講談社現代新書)、『官邸ポリス――総理を支配する闇の集団』(講談社)、『内閣調査室秘録――戦後思想を動かした男』 (文春新書)、『武器としての情報公開』(ちくま新書)なども紹介している。

  • 書名 スノーデン・ファイル徹底検証
  • サブタイトル日本はアメリカの世界監視システムにどう加担してきたか
  • 監修・編集・著者名小笠原みどり 著
  • 出版社名毎日新聞出版
  • 出版年月日2019年9月 7日
  • 定価本体1500円+税
  • 判型・ページ数四六判・240ページ
  • ISBN9784620325965

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