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通勤が変われば、生活は変わる

脳にいい!通勤電車の乗り方

 いきなり問題です。通勤電車の中では、以下の二つの動作のうち、どちらが脳を活性化するでしょうか?

(車内で)立つ VS 座る
端の席に座る VS 真ん中の席に座る
(スマホで)ゲームをする VS レシピを検索する
(満員電車では)何もしない VS 文字を読む

 答えはのちほど明かすとして、本書『脳にいい!通勤電車の乗り方』(交通新聞社新書)は、脳内科医で昭和大学客員教授の加藤俊徳さんが、通勤時間に脳を鍛えて、健康に効く「電車の乗り方」を紹介した本だ。

 加藤さんは、発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家。胎児から超高齢者まで1万人以上の脳画像を分析、脳の特徴を知ることでいくつになっても脳を成長させることができる「脳番地トレーニング法」を提唱。昨年BOOKウォッチでも紹介した『50歳を超えても脳が若返る生き方』(講談社+α新書)などの著書がある。

「人種のるつぼ」のような電車内

 毎日、窮屈な満員電車での通勤時間は、不毛だと思うかもしれないが、加藤さんは、電車内や乗車前後の行動を少し変えるだけで、脳の働きを高めることができる最高の環境になるという。

 なぜ、通勤電車が脳にいいのか。それはまったく異なる二つの性格をあわせもつ不思議な空間だからだ。不特定多数の人が共有する「パブリックスペース」であるため、周囲に気を配り、マナーを守らなければならない。そのため自然と観察し行動するという流れの中で、脳がまんべんなく刺激を受ける。一方、人の素の部分が出やすい、非常に個人的な空間になりえるという特性もある。だから、「人種のるつぼ」のような電車内は脳全体が活性化する、と説明する。

 本書の第3章では、「脳にいい!乗り方トレーニング」として33の方法を紹介している。その中から、「なるほど」と思ったものをいくつか挙げてみよう。

 ・駅の階段を上り下りする(2~6回) 運動系脳番地と視覚系脳番地を活用。有酸素運動にもなる
 ・いつもと違う車両に乗る(週1回) いつもの車両との違いを探すことで、記憶系・視覚系・聴覚系脳番地が強化される
 ・スマホを機内モードにする(1回以上) せめて行きの電車ではスマホを見るのをやめる。スマホからの刺激に脳が反応し、能動的な選択をする余地がなくなるから
 ・オーディオブックを聴く 聴覚系脳番地を鍛える。前に読んだことのある本がおすすめ。内容を思い出すことで、記憶系脳番地も強化される

 さて、ここまで読むと、なんとなく冒頭の問題の答えもわかるだろう。正解は上から順に「立つ」、「真ん中の席」、「レシピを検索」、「何もしない」である。本書では詳しく理由を解説しているが、ざっくり言えば、どちらがより脳を刺激するかということだ。最後の「何もしない」は少し説明が必要だろう。学びの習慣がついている人にとって、「何もしない」ということは初めての経験に等しいことなので、脳にとっては大きな刺激になるという。何らかの動作をするのと同じくらい思考系脳番地を使い、前頭葉が非常に活性化するそうだ。

スマホの悪影響

 評者は本書を読み、通勤電車の中で、スマホにはまっている我が身に重大な警告を受けたような気がした。スマホの悪影響はたくさんある。小さな画面に視線を集中させるため、眼球運動がほとんど起こらない。視覚系脳番地を酷使するので、脳が疲弊し、身体の「疲れ」となって表れる。

 だが、著者はスマホを全面的に否定している訳ではない。帰りの電車では、スマホで新しい趣味を検索することなどを勧めている。要は朝の大事な時間にスマホに脳を占有させることのムダと弊害を説いているのだ。

 評者はたまに別の車両に乗ったり、帰りに別の駅で降りたりする行動は自然としてきた。脳が刺激を求めていたのかもしれないと思い、あらためて脳の不思議な世界に頭を巡らせた。

 加藤さんは「現状を変えるなら、まずは通勤を変えること。通勤が変われば、仕事が変わり、生活が変わっていきます」と呼びかけている。

 BOOKウォッチでは、脳科学関連として、『9つの脳の不思議な物語』(文藝春秋)、『学びを結果に変えるアウトプット大全』(サンクチュアリ出版)などを紹介している。

  • 書名 脳にいい!通勤電車の乗り方
  • サブタイトル脳内科医がズバリ解説
  • 監修・編集・著者名加藤俊徳 著
  • 出版社名交通新聞社
  • 出版年月日2019年10月15日
  • 定価本体800円+税
  • 判型・ページ数新書判・191ページ
  • ISBN9784330013190
 

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